米国が医薬品を中国に依存

NEWSクローズ・アップ

新型コロナで是正求める声

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、米国で医薬品を中国からの輸入に依存している状況を是正すべきだとの声が高まっている。医薬品の安定供給への懸念のほか、中国が米国への輸出を制限するなど「経済的武器」として利用することへの警戒感が背景にある。

 「中国が医薬品輸出の禁止を発表すれば、米国はコロナウイルス流行の地獄に陥るだろう」――。中国国営通信の新華社が4日、米国に対するあからさまな「脅迫」と取れる記事を発表したことが波紋を呼んだ。

 同記事は、米国が決めた中国からの渡航禁止措置を批判。中国がその「報復」として医薬品や医療用品の輸出を禁ずる可能性に言及している。

 対中強硬派として知られるルビオ上院議員は12日に出演したテレビ番組で、同記事について、中国が「米国への医薬品供給を遮断すると脅したり、国内問題を引き起こして中国に立ち向かうことを困難にできることを強く認識している」と指摘。「それは途方もない効力を持つことになる」と警戒感を露(あら)わにした。

 中国は産業政策「中国製造2025」の重点分野の一つとして、医薬品分野にテコ入れを図ってきた。その結果、同国の医薬品産業は急成長し、特に抗生物質や医療品有効成分(API)などの世界市場で高いシェアを占めるようになった。

 米外交問題評議会のヤンゾン・ファン上級研究員によると、中国の製薬会社は米国市場において、抗生物質で8割以上、解熱鎮痛薬「アセトアミノフェン」の7割以上のシェアを占めている。また、米国はAPIの8割を中国やインドからの輸入に頼っているが、近年、中国からの輸入が急増していると考えられている。

 米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」が昨年11月に公表した年次報告書によると、中国は「補助金、知的財産の窃盗、強力な化学産業の基盤、緩い環境規制、国内産業の規制面での優遇」により、世界最大のAPI生産国となったと指摘。中国がこうした立場を「経済的武器」として利用する可能性があると警告した。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、見直しを求める声は高まっている。

 今月12日に上院の委員会で証言した米研究機関「ヘイスティングス・センター」のロズマリー・ギブソン上級顧問は、その準備書面で、「症状が重いコロナウイルス感染者の治療に用いられるジェネリック薬品の化学成分のうち9割は中国に由来する」と指摘。こうした薬品を一国に依存する状況は「国民の健康をリスクにさらす」と警告している。

 新型コロナウイルスの感染拡大による工場の閉鎖などで中国の医薬品生産の減速の結果、すでに供給不足への懸念も生じ始めている。食品医薬品局(FDA)は先月下旬、中国から輸入される20種類の医薬品やその原材料について監視していると発表した。

 米政府や議会では、問題の是正に向けて動きだしている。

 米メディアによると、ホワイトハウスでは、米政府が医薬品や医療製品の米企業からの購入を増やすなどして、米国で製品を製造するインセンティブを提供する大統領令も準備されているという。

 また、立法化を目指す動きも出ており、民主党のメネンデス上院議員と共和党のブラックバーン上院両議員は今月、米国のAPIの製造を促進することを目的とした法案を提出。メネンデス氏は声明で、同法案は「米国の医薬品サプライチェーンを強化し、正しい道に進むための第一歩」だとした。