ブルームバーグ氏の際立つ中国傾斜
米大統領選で民主党の指名候補を争うブルームバーグ前ニューヨーク市長は、巨額の広告費を投じて支持率を伸ばしたことで注目を集めている。しかし、ウイグル族弾圧など人権問題を抱える中国へ過度の配慮を示す発言が目立つなど、ビジネスを通じて利害関係を持つ中国に対する姿勢が問われている。(ワシントン・山崎洋介)
CO2排出軽視 記事検閲「容認」
ビジネス面で利益受け屈服
「インドの方がずっと大きな問題だ」
先週、ネバダ州で行われた候補者討論会で、気候変動対策を公約に掲げるブルームバーグ氏は、中国の二酸化炭素(CO2)排出量が減少しているとし、代わりにインドに取り組みを促す必要性を示した。
これは、司会者から「あなたの会社は中国にかなり投資しているが、CO2排出量の削減を中国に迫ることができるか」と問われたことに対する回答だった。しかし、2017年の二酸化炭素排出量の国別割合は、インドの7%に対し中国は28%と4倍もの規模で、これを軽視するブルームバーグ氏の発言は中国への配慮をうかがわせた。
同氏は1981年に「ブルームバーグ」の前身となる会社を創業し、現在、金融情報サービスや通信社などメディア事業を展開する。
ワシントン・ポスト紙によると、同社の100億㌦の年間収益のうち、中国本土と香港が合わせて5%を占める。それに加え、中国で同社が事業を展開する中で得た経済データは、世界中の顧客に投資判断に不可欠な情報となっており、「バランスシートに現れない形で計り知れない価値がある」という。
こうしたことから同紙は、仮にブルームバーグ氏が大統領選に当選すれば外国との「前例のない結び付きを持つ大統領になり得る」と指摘する。
こうしたビジネス上の利益は、ブルームバーグ社が報道に関して中国の圧力に屈する要因となったとみられる。
ブルームバーグ・ニューズは2012年、当時の習近平国家副主席ら中国共産党幹部らの個人資産に関して調査記事を流したが、これに中国は強く反発。ニューヨーク・タイムズ紙によると、その後、新たな記者へのビザ交付が拒否され、金融情報を提供する同社専用端末の販売が減速した。
その翌年、ブルームバーグ・ニューズで共産党幹部らと民間の大富豪の関係について調査した報道の発表が控えられたと同紙が伝えた。同社の編集幹部らが中国からの事業撤退を強いられることを恐れたためとされる。
この問題についてブルームバーグ氏は、2014年のCNBCテレビによるインタビューで、記者に対して「口封じ」をしたことがあるかと問われ、「中国では、記事の公開について彼らのルールがあり、われわれはこうしたルールに従う。もしそうしなければ、中国にいることはできない」と中国による「検閲」を容認するかのような発言をした。
トランプ政権誕生後、貿易、安全保障をめぐり米中で緊張が高まる中でも、ブルームバーグ氏は中国との関係を深めた。2018年にはシンガポールで王岐山国家副主席ら中国の要人らビジネスリーダーを集め「ニュー・エコノミック・フォーラム」を初開催。さらに、昨年9月のインタビューでは、強権体制を確立させた習近平国家主席について「独裁者ではない」と擁護した。
ブルームバーグ氏は、大統領に当選した場合、事業を売却するとしている。しかし、中国に媚(こ)びるような過去の言動に依然として疑問が残る。
共和党のギングリッチ元下院議長は、共産党幹部についての報道をめぐりブルームバーグ氏が中国に「完全に屈服した」と非難。ブルームバーグ氏は事業で築いた600億㌦とも言われる巨額の資産を元に選挙戦を戦っているが、「彼が大統領職を買うために費やす資金のどの程度が、中国の独裁政権と進んで親しい関係を築いたことによるものなのか問う必要がある」と指摘した。