米国は中国の技術窃盗へ取り締まり強化
米国は、米医療研究機関から先端技術を盗む中国の活動への取り締まりを強化している。モフィット国立がんセンター(フロリダ州)は先月、所長ら4人の辞任を発表した。4人は中国共産党が海外で活躍する研究者を取り込む「千人計画」から報酬を得たことを報告していなかった。(ワシントン・山崎洋介)
米医療研究機関トップ辞任
「千人計画」関与で報酬報告せず
モフィット国立がんセンターで先月18日、所長であったアラン・リスト氏ほか、副所長ら計4人の突然の辞任が発表された。同センターに研究費を助成する国立衛生研究所(NIH)から「米国の研究を危うくさせる外国勢力の取り組み」について情報提供を受けて、内部調査を進めた結果、千人計画への関与が「利益相反行為」に当たると判断された。事実上の解任とみられる。
米司法当局はこの千人計画への取り締まりを強化している。これに採用された研究員らが、米国の大学や研究機関で、最先端の研究成果を盗み出し、中国本国に送っているとされるからだ。
千人計画など中国の人材獲得計画について連邦捜査局(FBI)防諜(ぼうちょう)部門担当のジョン・ブラウン氏は昨年11月の議会証言で、中国は米国から先端技術を入手することで、「米国の優位性を損ないつつ、世界の超大国の地位を米国から奪おうとしている」と警戒感をあらわにした。そのために専門的なスパイだけでなく民間人ら「非伝統的な情報収集者」も用いていると指摘した。
ブラウン氏によると、千人計画などにより高待遇で迎えられた研究者らは、米国で行った研究成果を中国に持ち込むよう促されている。中には、経済スパイや企業秘密の窃盗、補助金の不正受給などで米国の法律を犯すケースがあるという。
こうした中国の人材獲得計画をめぐり、中国出身のカンザス大学教授らすでに2人が起訴されている。
FBIが米医療機関におけるスパイ行為への対応に本腰を入れ始めたのは2018年夏ごろだ。昨年11月のニューヨーク・タイムズ(NY)紙の報道によると、この時期にFBIは、知的財産窃盗の疑いのある事例について、NIHに情報提供した。
その後、NIHは研究費を助成している研究機関に特定の研究者について調査するよう書簡を送付。これを受け、71の医療研究機関で180件の調査が現在進行中で、そのうち24件は犯罪行為の疑いがあるという。
こうした大規模な調査の過程で、中国と不透明なつながりがある研究者を解雇する動きが、全米の医療研究機関で相次いでいる。
世界有数のがん医療機関であるMDアンダーソンがんセンター(ヒューストン)は昨年4月、中国籍を含む3人の研究者を解雇した。NY紙によると、NIHから調査の要請を受け研究者たちのメールを調べたところ、機密の研究成果を中国に持ち出そうとしていたことを示す記述が見つかったという。
エモリー大学(ジョージア州)は昨年5月、20年以上在職していた中国出身で米国籍の李暁江、李世華両氏を解雇した。ハンチントン病の研究で知られる夫妻だったが、千人計画による資金提供を受けていたことが発覚した。
所長ら4人を解任したモフィット国立がんセンターでは、12年間続けている中国の天津医科大学癌研究所との共同事業についても、徹底した調査を進めるとしている。
トップの解任につながった同センターの問題を受け、米国の開かれた研究環境につけ込み、情報を盗む外国の活動にさらなる対応を求める声が上がっている。ワシントン・ポスト紙コラムニストのジョシュ・ロギン氏は「米国の国際協力的な研究環境の公開性を保ちつつ、国家安全保障を確保するための戦略を立てるべきだ」と主張している。






