1年を切った米大統領選挙

エルドリッヂ研究所代表 政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

改革できず苦境の民主党
トランプ氏の再選が濃厚に

ロバート・D・エルドリッヂ

エルドリッヂ研究所代表 政治学博士
ロバート・D・エルドリッヂ

 来年11月3日に行われる、4年に1度のアメリカ大統領選まで1年を切った。候補者の数や発言、激しいやりとりの報道を見て、もう既に選挙戦に入っていると思われる読者もいるかもしれない。各政党の大統領候補を決める予備選は実は来年正式に始まり、主要な二つの政党のそれぞれの党大会は来年の夏までは開催されない。だが、このままでいくと、報道機関の希望とは違い、現職のドナルド・トランプ大統領の再選が濃厚だと思っている。

政策的議論ない討論会

 トランプ氏が素晴らしいからなのではなく、3年前に本欄で指摘したように、野党が無能だからだ。当時、筆者はトランプ氏に注目するよりも、民主党がなぜ負けたかをちゃんと反省し検証した上で改革しなければ、トランプ氏は2期目も務めるだろうと指摘した。

 この3年間、民主党は反省もしなければ、改革もしてこなかった。さらに、ヒラリー・クリントン氏という最低の、つまり党内の一部の共謀者以外で人気のない候補よりマシな候補を選びそうもない構造のままになっている。

 筆者は無党派だ。自由に考え、自由に行動するために、原則として政党に所属していない。2016年の大統領選の時に、最低のヒラリー氏でも別の意味で最悪のトランプ氏でもなく、第三の政党の候補に投票したのはそのためだ。

 トランプ氏が当選し、不安はあったが、ある面ほっとした。絶対、ヒラリー氏に勝ってほしくなかったからだ。政治家として、国務長官として、大統領候補として疑念が多過ぎ、当時は「悪(トランプ)よりマシ」と言われた程度だった。生活に苦しんで、チェンジを約束して、8年間に続いたオバマ政権に騙されたと感じた多くの国民は、その政権の中枢で、党を握っていた彼女のメッセージに共感できなかった。

 現時点で、ヒラリー氏は立候補の意向を示していないが、党内でまだ影響力を持っており、二十数人の民主党候補の中で彼女を批判するのは、1人か2人しかいない。民主党は全く反省も、改革もできていない。

 改革どころか、前と同じようなスローガンを活用している。「Vote Blue No Matter Who(誰が候補になっても、とにかく民主党に入れよう)」はよく使われる表現だ。10月15日に行われた4回目の民主党大統領候補者討論会では、いかに弾劾調査を受けるトランプ氏が悪いかを中心に発言し、政策的な議論は皆無だった。

 予備選の場合、相手の政党(特に与党や現職の大統領)と戦うのではなく、自党の他の候補と区別するために、お互いが論戦するはずだが、政策の中身がなく、為政者らしくない民主党候補は、共和党を批判するだけの“楽な道”を選んでいる。それによって、軌道修正ができず、党のルーツからますます離れてしまっている。

 予備選で戦い続けて勝ち取った候補なら、試練を経て強くなり、相手候補と同等で戦うことができるが、今の民主党は、そのような候補を誕生させそうもない。「非常識」の戦いをするトランプ氏は、指名を受ける民主党候補を来年秋の討論会で完全につぶしてしまうだろう。

 現在、アメリカの有権者の70%は、35歳以下、有色人種(黒人、ラテン系、その他)と女性で、本来なら民主党に支持が集まるはずだが、上記の問題のため、民主党候補を敬遠する傾向にある。

 その意味で、来年の大統領選挙で、投票率は極めて重要となる。共和党の党員は組織的に投票しているが、民主党はそれほど団結していない。好きではない上に、中身のない候補になると、なおさら民主党員の投票率が下がる。

 海外では、アメリカの有権者は民主党と共和党の五分五分で分かれていると思われているが、実は国民の約半分は無党派だ。

課題は無党派の票獲得

 今回、民主党は、無党派の票をいかに獲得できるかが大きいな課題だ。だが、中道になればなるほど、革新系の民主党員やその他の国民は、民主党離れをしてしまうとのジレンマが生じている。クリントン元大統領とオバマ前大統領はうまくバランスを取れたが、現在の民主党にはそれができる人はほとんどいない。

 先日、公表されたある報告書によると、トランプ氏は圧勝し再選される。経済などの側面からの分析から得た結論だったが、分析を見るまでもなく勘でも分かる。

 改革を怠り、反省できないエリート感覚のある民主党は、よほどの政治・経済のショックがない限りは来年の大統領選挙での敗北は免れない。