安保不公平論とホルムズ海峡
元統幕議長 杉山 蕃
再定義の必要性問う米国
同盟の堅確性維持へ議論を
20カ国・地域(G20)大阪サミットに際し、トランプ米大統領が「日米安保不公平論」を展開したことから、外交防衛論者が一斉に、対応する意見を述べ、ちょっとした騒動になった。論旨の多くはトランプ大統領の主張は「日米安保の片務性」を基とするものであり、それは一方的見方で、我が国が果たしている役割すなわち米軍に対する基地、演習場等の提供、作戦力を持った米軍の駐留、駐留経費の7割負担等により、米国の世界戦略を支える「大きな役割」を果たしており、十分バランスの取れた状態にある。双方の果たしている形が非対称であり、分かりにくい面もあるが、相互に十分理解すべきだとするものである。
狭隘な安保の適用地域
筆者は若干異にする感覚を持っており、この際紹介したい。第一点は、日米安保の現状については、外交防衛論者の各位が主張されている、バランスの取れた状態論に賛成で、同様の評価をしている。特に最近の中国の軍事力の異常な膨張と南シナ海問題、北朝鮮の核開発問題での経済封鎖、韓国の「北のめり」の姿勢等から「在日米軍」という安定した軍事拠点の重要性はますます米国にとって重要性を増していると言える。
問題は、トランプ発言は、「日本の施政の下にある領域」について定める本条約は、日米同盟という大きなスケールで見た場合、適用地域が狭隘(きょうあい)であり、日米安保のみを日米協力の根拠とするのは不具合ではないかとする疑問を投げ掛けたところにあると考えている。すなわち、米国が日本領域以外で行動する場合でも、状況に応じた軍事協力を行ってほしいとする要請と受け取れる。「米本土が攻撃された場合」といった極端な議論をする向きもあるが、わが領域外での協力の在り方を検討すべきなのであろう。
現に米国は日本周辺において、南シナ海「自由航行作戦」、北朝鮮経済封鎖行動、そしてホルムズ海峡の自由航行活動の主導等、我が国の積極的参画を期待する局面は多々ある。さらに膨張する中国海軍の外洋進出に対し、日米の共同対処は不可避な懸案事項である。現にフィジー共和国に拠点進出の動きが報ぜられたが、このような問題については、真面目な取り組みが必要とされる。
そもそも日米安保条約は、1951年サンフランシスコ条約が締結されたその日に調印され(旧安保)、60年現行条約が取って代わって締結された。当時は中国では国民党軍が国共内戦に敗れ、台湾に押し込まれた直後であり、朝鮮半島では朝鮮戦争が勃発、世情は左翼的勢力が猛威を振るった時代である。安保条約の目標は、ソ連・中国・北朝鮮からの我が国への直接・間接の侵略防止に置かれたことは当然であった。
その後長い年月の間、東西冷戦、冷戦崩壊等、時の情勢に応じて、日米両国は安保条約の再定義・再確認といった形で同盟関係を堅持する努力を行ってきた。特に冷戦崩壊、ソ連解体後の日米同盟について、96年から97年にかけて行われた「日米同盟再定義」「日米防衛協力の指針(新指針)」はその後の日米関係を堅確化する大きな節目であったと認識する。
かような観点から、北朝鮮・イランの核開発問題、中国の軍事力拡張と一帯一路政策、南シナ海領海化問題等を大きな情勢変化と捉え、日米安保再定義ともいうべき作業の必要性を米政府として議論したいことの表れと見るべきではないだろうか。トランプ発言を「安保片務論への反論」にとどまらず、その堅確性を維持するため、日米同盟という大きなマスの中で、今後の在り方を捉えていく議論に発展させるべきであろう。
有志連合参加は“責務”
参議院選挙も終わり、与党は安定多数を維持することとなった。選挙活動中、米国は頻発するホルムズ海峡安全航行のため、有志連合による国際共同対応を主導し、我が国へも参加を要請する動きにある。我が国は既に被害を受けているし、我が国に供給される石油の80%は、ホルムズ海峡経由という実態から、参加するのは国際的責務であろう。しかし、例によって該当する法律がなく、特措法を定めるにしても厄介な法制解釈が必要である。選挙明け早々、ボルトン米大統領補佐官が来日、調整が始まり、続いてポンペオ米国務長官との外相会談も行われ、重要な時期を迎えているが、国民が納得する対応をもって臨むよう切望する。
(すぎやま・しげる)