民主討論会は左派と極左の戦い
アメリカ保守論壇 M・ティーセン
バイデン氏支持が減少
後退する穏健派
2日間にわたった民主党の討論会は、党内の穏健派と左派の政治をめぐる戦いとして描かれた。しかし、デトロイトで実際に見たのは、党内の左派と極左の戦いだった。
7月30日夜、バーニー・サンダース上院議員(無所属)とエリザベス・ウォーレン上院議員が提唱する社会主義政策に対して、穏健派と言われる候補者らが強い警告を発した。民主党のジョン・ヒッケンルーパー前コロラド州知事は、「民主党は昨年、下院で共和党から40議席を奪い返した。その40人の民主党員のうち、誰一人として、ステージ中央の有力候補の政策を支持しなかった」と危機感を表明した。モンタナ州のスティーブ・ブロック知事は、サンダース、ウォーレン両氏の主張を「欲しいものリスト経済」と非難した。メリーランド州のジョン・ディレイニー元下院議員は、ここで提唱されているのは「『メディケア・フォー・オール(全国民への公的医療保険)』や、あらゆるものを無料にする政策など、できるはずのない公約ばかりで、無党派の有権者を遠ざけ、トランプ氏を再選させるものだ」と訴えた。
◇有権者の反発懸念
問題は、警告を発した候補者らの支持率が1%以下で、その政策には、穏健、中道のものがないということだ。
例えば、医療保険。提示された代替案は、いわゆる公的医療保険の導入であり、長期的にはメディケア・フォー・オールへ移行すると説明されている。まず、65歳未満の若い人々は、個人で保険に入るか、従来のメディケアに加入することを選択できるようにする。その上で、「メディケアを選択する人が増えれば、最終的に15年で、メディケア・フォー・オールへと到達することができる」(ヒッケンルーパー氏)。
これについての「穏健派」の懸念は、医療保険制度の社会主義化の危険性にではなく、短期間で進めると、有権者が反発するのではないかというところにある。これでは、カエルを熱湯に放り込むと飛び出すが、冷水に入れて、少しずつ加熱していくとカエル料理ができると言っているのと同じだ。
公的医療保険の導入は、メディケア・メディケイド(低所得者向け公的医療保険)サービスセンターのシーマ・バーマ所長が説明しているように、「内部に単一支払者制度を隠しているトロイの木馬」だ。そうなるとやっかいなことが起きる。
民間の保険会社は病院に、同じサービスに対してメディケアよりも75%多く支払い、事実上、メディケアを補助している。65歳未満でメディケアに加入する人が増え、これらの民間からの補助がなくなれば、コストは急上昇し、病院は閉鎖され、大規模増税や政府の介入が必要となる。オバマ大統領は10年前、急進的過ぎるとして公的医療保険の導入を見送ったが、今の民主党はこれすら右寄りと考えている。
これが、ウォーレン、サンダース両氏が言っていることだ。両氏は、完全な社会主義への運動に十分な貢献ができないと、反対勢力を非難した。ウォーレン氏は「直面している緊急課題は、けちな考えや腰の引けたやり方では解決できない。わざわざ合衆国大統領に出馬して、どうして、あれはできないとか、あれはすべきでないとかばかり言っているのか、私には理解できない」と言ってのけた。
言うまでなくこの言葉は、ステージ上の支持率1%以下の候補者らに向けられたものではない。7月30日夜にその場にいなかったバイデン前副大統領に向けられたものだ。
バイデン氏は31日、わずかなリードでトップに立っていた。メディケア・フォー・オールにかかるのは3兆ドルなのか、30兆ドルなのかでつまずいていた。泡沫候補者らは、オバマ政権時に大量の移民が国外退去になり、アフリカ系米国人の大量収監につながる犯罪法の起草に尽力したとバイデン氏を攻撃した。バイデン氏は答えに窮していた。ニューヨークのビル・デブラシオ市長はバイデン氏に、「合衆国大統領になりたいのなら、厳しい質問にも答えられなければならない。ドナルド・トランプ氏との討論会に臨むことになった場合、苦境に立たされることは間違いない」と述べた。
◇頼りないバイデン氏
バイデン氏は世論調査でトップに立っている。それは、民主党員が中道派を求めているからではない。勝てる候補を求めているからだ。司会者のジェイク・タッパー氏は、「数々の世論調査の中で民主党の有権者らは、欲しいのはトランプ大統領に勝てる候補者であり、主要問題で考え方が一致する候補者ではないと言っている」と指摘した。討論会での頼りない態度のせいで、バイデン氏では勝てないのではないかという見方がゆっくりと広がっている。ウォーレン、サンダース両氏で票の30%を占めている。これは二つのことを意味する。第1は、2人合わせれば、数字上はバイデン氏と同じ、第2は、民主社会主義票を分け合っているということだ。
この3人が最終的にステージに立つ時、本当の討論会が始まる。
(8月2日)






