「こども第一主義」で才能伸ばす 浜松市
浜松市長 鈴木康友氏
浜松城など天下人・徳川家康とも縁の深い街、静岡県浜松市。この街で「こども第一主義」「持続可能なまちづくりへの挑戦」などを掲げて市政に取り組む鈴木康友市長(61)に話を聞いた。(社会部・石井孝秀)
「出世の街」コンセプトに
財政健全化で人口減に対応
少子化など人口問題についてどう対応しているか。
確実なのは人口が今後減るということ。たとえ出生率が上がったとしても、人口が回復するのは何十年も先の話になる。
その現実を受け入れて、人口が減っても地域の活力を維持できるように長期的な取り組みをすることが大切。持続可能な都市経営を掲げているのはそのためだ。今、元気のあるうちに行政改革などをして財政の健全化を図り、強靭(きょうじん)な財務体質を作ることで税収が少々減っても十分対応できるようにしている。
浜松は平成17年に12市町村が合併した。いわゆる消滅可能性都市と呼ばれていたような町村が、全部合併したことで地域全体が生き残ることができた。そういう意味で浜松は全国の先進的なモデル事例だ。人口が最低50万人あれば、自立した都市経営ができると思う。全国の自治体をだいたい50万~100万人に整理すれば、自治体として自立していけるというのが私の考えだ。これから先、人口1万人を切るような自治体が単独で生き残っていくのは難しいと思う。
市長はマニフェストの一つに「こども第一主義」を掲げているが。
将来を担うのは子供たちだ。歴史をひもといても、教育と人材育成に力を入れてきたところは地域も国も強くなる。それは歴史が証明している。
私は特に、子供たちの個々の才能・能力を伸ばしたいと考えている。行政が静岡大学と連携して理系に強い子供を育てる「浜松ダヴィンチキッズプロジェクト」やNPOと連携した体験・実践型の子供向けIT講座「浜松ITキッズプロジェクト」などの取り組みを行っている。中学生が大学院の人と同じ数学を勉強したり、中には国際生物学オリンピックで優勝したりと、すごい子が出てきている。もちろん、伸ばした才能を浜松で役立ててくれれば嬉(うれ)しいが、日本全体で活躍してほしい。
観光など地域振興のための取り組みは。
市役所の近くに浜松城があるが、歴史的なものは土台だけで、天守閣は再建したものにすぎない。全国には名だたる名城がたくさんあるので、ハード面では勝負できない。
たまたま、浜松城が“出世城”と呼ばれているのを知った。それを聞いて「これだ!」と思った。徳川家康公が一番長く居たのは浜松。最初は5万石の小大名にすぎなかったのが、やがて100万石の大名に大飛躍した。こうした城にまつわるエピソードはどこにもまねできない独自のもの。明治以降も浜松からは本田宗一郎や鈴木道雄など、名だたる世界的経営者が輩出されている。そこで「出世の街」をコンセプトに活気ある街づくりをスタートした。
このコンセプトに共鳴してくれた若手の飲食関係者が、浜名湖産のうなぎなど地元の農水産品を「浜松パワーフード」として打ち出している。徳川家康を育てた浜松の豊富な食材というPRだ。これにはJAL(日本航空)なども提携している。
このほか浜松をビーチスポーツやマリンスポーツの聖地にしようと考えている。サッカーやラグビー、野球などの施設を何百億円かけて建設しても、全国のさまざまなスタジアムには勝てない。浜名湖、遠州灘、そして広大な砂浜を使えば、あらゆるビーチ、マリンスポーツが可能だ。一番お金がかかるものでもヨットレースのハーバーで、それでも10億円ほどとコストパフォーマンスがよい。
リニア中央新幹線の開業後は、首都圏・中京圏・近畿圏が一つの巨大都市圏(スーパー・メガリージョン)になると期待されているが。
現在、浜松駅には新幹線が1時間に10本ほど通っているが、止まるのはこだま2本にひかり1本。あとの7本はすべて通過する。通過待ちのために東京までは1時間半ほどかかる状況だ。
だが、東京から名古屋がリニアで直通になれば、ひかりやこだまの本数が増加し、東京まで1時間ちょっとで行けるようになる。浜松も通勤圏の街になり得るし、さらに静岡空港にも新たな駅ができるだろう。そうすればインバウンド(外国人観光客)のさらなる獲得にもつながる。