中国との関係強めるタリバン
日本対外文化協会理事 中澤 孝之
経済再建へ手助け期待
「一帯一路」参加に意欲示す
イスラム主義武装勢力タリバンが駐留米軍の撤退に乗じてアフガニスタンの首都カブールを8月15日に再び制圧し、民主的文民政権を崩壊させて、9月15日で1カ月が過ぎた。
タリバンは当初、崩壊した民主政権関係者や駐在外国人に対する協力者を含む全国民への「恩赦」を強調した。しかし、時が経(た)つにつれて、タリバン流のイスラム法の解釈を基に権力を独占し、人権に制約をかける統治体制の輪郭が見え始めているようだ。
強権支配の再現を懸念
9月7日発表された包括的政府に程遠い暫定政権での勧善懲悪省の復活など、過酷な施政を日常的に断行していた旧タリバン政権(1996~2001年)の強権支配の再現を思わせ、民衆の中に恐怖が広がっていると伝えられる。とりわけ、女性の教育、就労、スポーツ、生活環境に関して、さまざまな制約を設けるなど人権侵害の事例が報じられ、国際社会も、旧政権の圧政に戻ることを強く懸念している。
米軍撤退後の目立った動きの一つとして、中国のタリバン接近がある。中国の呉江浩外務次官補は9月2日、カタールのドーハに駐在するタリバン幹部と電話協議したと、中国外務省が発表した。呉次官補は「アフガン情勢には既に根本的な変化が起き、アフガンの前途と運命は国民の手に戻った」と指摘し、速やかな平和と安定の実現を望むと伝えたという。また、同次官補は、中国は一貫してアフガンの主権と独立、領土保全を尊重してきたとも強調。両国の友好関係は「歴史がある」と述べた。
一方、タリバン幹部は中国を「信頼に値する友人」と表現し、「どのような勢力にも、アフガン領土を利用して中国の利益を脅かすことは許さない」と、テロ勢力と一線を画する意向を表明するとともに、巨大経済圏構想「一帯一路」への参加に意欲を示したという。
AFP電によれば、タリバンのスハイル・シャヒーン報道官も、同じ電話協議について発表、中国が駐アフガニスタン大使館を維持し、アフガンへの人道支援を増やすことを約束したと明らかにし、「過去と比べて、我々の関係が強化されるだろう」と付言した。呉次官補と会談したタリバン幹部はドーハのタリバン政治事務所幹部のアブドゥル・サラム・ハナフォー氏。
20年ぶりに再執権したタリバンは9月2日、中国の助けを借りて経済を再建する考えを明らかにした。中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」などの報道によると、タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官はこの日、イタリアの日刊紙「ラ・レプッブリカ」が報じたインタビューで、「中国は我々の最も重要なパートナーであり、特別な機会を提示した。彼らはアフガンに投資して、再建する準備ができている」と語った。ムジャヒド報道官はまた、「貿易路を開放して世界的影響力を高めようとしているインフラ構想である中国の『一帯一路』に大きな関心がある」と強調した。
さらに、ムジャヒド報道官は「我々は豊富な銅鉱山を保有している。中国の投資で鉱山を再び稼働させて、現代化することができよう」と投資誘致の意向を明らかにし、「中国は世界市場に進む通行券」と付け加えた。
露は実利的な関係持続
なお、ロシアのメディアによれば、タリバン暫定政権とは実利的な関係を持続させている同国の場合、タリバンに対して今なお、「テロ組織」に認定しており、国内での活動を禁止している。ブリンケン米国務長官は9月23日、国連総会が開かれているニューヨークでの記者会見で、中国、ロシア、パキスタンの外相らとタリバンへのアプローチの仕方や目標で協議したことを明らかにし、これらの国と「非常に強固に結束していると考える」と言明したが、外交辞令にすぎないと思われる。
(なかざわ・たかゆき)