9月日銀短観 景気の下支えが欠かせない


 9月の日銀全国企業短期経済観測調査(短観)によると、大企業製造業の景況は5期連続で改善したが、改善ペースが鈍化し先行きは悪化の予想である。
 緊急事態宣言が解除され、経済正常化への動きが期待されるが、消費の大きな伸びにはつながりにくく、海外要因から生産減が現実化し、輸出にも不安要因が出ている。景気の失速を避けるためにも新政権による下支えが欠かせない。

東京株31年ぶり高値、総裁選で経済対策に期待

前日比222円73銭高の3万0670円10銭と、31年ぶりの高値になった日経平均株価の終値=14日午後、東京都中央区

自動車が大きく悪化

 企業の景況感を示す業況判断指数(DI=「良い」と答えた企業の割合から「悪い」を引いた割合)は、大企業製造業、大企業非製造業とも5期連続で改善したが、ペースは鈍化し小幅にとどまった。

 製造業では裾野の広い自動車が、半導体不足や東南アジアでの新型コロナウイルス感染拡大に伴う部品調達難から、マイナス7と前回のプラス3から大きく悪化。これで製造業全体の改善ペースが下がるとともに、先行きも悪化の見込みとなった。自動車メーカーの減産の影響が幅広い業種に広がるとみられるほか、木材などでは原材料価格高騰への懸念も残る。

 非製造業はプラス2と1ポイントの改善にとどまり、やはり緊急事態宣言の長期化が影響した。東京五輪・パラリンピック関連の警備需要などで対事業所サービスは大きく改善したものの、レジャー施設など対個人サービスは大きく悪化。宿泊・飲食サービスは横ばいだったが、マイナス74と大幅なマイナス圏に沈んでいる。非製造業は先行きも1ポイントの改善にとどまる。

 中小企業は製造業、非製造業とも依然マイナス圏で回復が遅れており、先行きはともに悪化の見込みになっている。

 こうした中、2021年度の設備投資計画が大企業全産業で前年度比10・1%増と、前回調査(9・6%増)から上方修正されたことは回復の下支えとなり、投資需要の底堅さを裏付けるものとして力強い限りだが、喜んでばかりもいられない。

 前述した自動車減産の広がりに加え、中国不動産大手・中国恒大集団の経営悪化が表面化する中国で景気が減速し始めている。これまで景況改善をリードしてきた製造業が、輸出の落ち込みを通じて回復力を一段と弱める恐れがある。

 もちろん、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除され、消費拡大や経済正常化の動きが進むことは確かに期待できよう。人流抑制や時短営業で深刻な打撃を受けた旅行やレジャー、宿泊・飲食などの業界では期待する声はひときわ大きい。

 ただ、消費者の行動様式がコロナ前の状態に完全に戻るとは限らず、たとえ戻ったとしても、コロナ関連倒産は既に2100件を超えており、失われた消費がどこまで回復するかは定かでない。

スピード感ある対策を

 4日に首相に就任する岸田文雄自民新総裁が、数十兆円規模の経済対策の策定を表明するなど景気下支えに意欲的なのはいい。第6波とならぬよう感染拡大を抑え、大規模な対策が十分に効果を発揮できるよう、給付手続きの簡略化などスピード感ある取り組みを望みたい。