中国建国70周年パレードの光と影

拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

軍事力強化の成果誇示
国民の発奮図り米に対抗姿勢

茅原 郁生

拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

 中国では10月1日の建国記念日を祝して、大々的な軍事パレードが北京で実施された。既報のように中国は精いっぱいの新兵器などを登場させて軍事力を誇示して見せた。しかし同日に香港では春から続く反中デモで警察官の発砲が流血の惨事を招いており、せっかくの国威発揚を期した建国70周年記念軍事パレードも思惑外れの血塗られたものになった。実際、わが国メディアも北京での慶事よりも香港での反中デモにまつわる惨事を先に報じていた。本稿では、軍事パレードを国内・国民向けの政治ショーと対米抑止力の両面から見ておきたい。

圧巻の戦略核ミサイル

 第1に、高い北京秋空下の軍事パレードは1・5万人の兵士に580両の戦車など戦闘車両、160機の航空機が参加する一大政治ショーであった。米中貿易戦争の激化でトランプ米大統領によって矢継ぎ早に打ち出される経済制裁のダメージで、工業部門の不振や国内総生産(GDP)成長率鈍化など中国経済が受けた打撃に国民は不安を感じる中で、強軍化の成果の誇示は国民向けの側面が強い。特に本年春から香港での反中国運動が100日近くも続く事態は習近平指導部の権威を揺るがす焦りの中で、国民の求心力強化が狙いとされた。米中角逐が緊迫化する中で、中国軍事力が対抗できる能力を構築し、対米抑止力強化を見せ付けることで習主席の権威高揚や国民の発奮を図る狙いが先行したと読み取れる。

 第2に、その裏付けとなる米中軍事バランスの観点から、軍事的な対米抑止効果の証しとして、北米大陸を射程内に置く軍事力や接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力強化を誇示し、トランプ大統領に軍事的な対抗姿勢を見せ付ける狙いもあった。

 まず地上パレードでは軍近代化を重視する習軍事改革の成果として新型戦車などと創設された15万人の戦略支援部隊の初出現でサイバー・電磁攻撃、情報作戦や宇宙戦など目に見えない戦力化の進展の一部を無人機などの展示から類推させた。

 上空では空中給油機、早期警戒管制機の他に重爆撃機・轟H6N、ステルス戦闘機・殲20などの出現が注目された。殲20は既に20機が台湾正面の東部戦区に実戦配備され、空中給油により第1列島線を越えて西太平洋への進出が可能になり、またH6Nも空中給油により1万㌔の航続が可能で、グアム攻撃も可能と見られるのが注目される。

 それでも圧巻であったのは4種の戦略核ミサイルで、まず巨大トレーラーに積載された大陸弾道ミサイル(ICBM)東風41で緑主体の迷彩が施され、1・2万㌔射程は全米を覆い、MIRV(10個の弾頭がそれぞれに目標に向かう)化がされている。次に東風26中距離ミサイルは射程4000㌔で核弾頭搭載可能で、グアムの米基地や空母機動部隊などを狙うとされ、「空母キラー」の異名がある。3番目に東風17中距離ミサイルで射程1400㌔の極超音波滑空兵器である。弾頭は終末段階では音速の5倍で目標に滑空するが、米ミサイル防衛網では迎撃困難といわれるシャープな弾頭形態が披露された。

 4番目が巨浪2型(JL2)ミサイルで海軍用のずんぐりした青色カバーに包まれて登場した。潜水艦搭載型ミサイルで核弾頭を装着し、8000㌔射程で中国近海から米本土の一部を射程に収める。JL1は1980年代に中国初の夏級原潜に搭載されたミサイルであるが、その後、晋級原潜の開発に伴い改良され、さらに全米まで射程を伸ばす次世代JL3型も開発中といわれている。

 関連してこれまで米露間の中距離ミサイルの軍縮を定めた中距離核戦力(INF)条約への中国の取り込みに失敗し、INF無効化によって米露中3国間での核運搬手段の軍拡競争の契機となることが懸念される。

 中国は2017年の第19回党大会で、21世紀中葉には世界最前列に立つ大国化を掲げ、制覇を裏付ける強力な軍事力構築を宣言していたが、今次の軍事パレードはその成果を見せ付けたもので、中国軍事力の強化が披露され、脅威度は増してきた。

注目度増す香港と台湾

 習主席は巡閲後の訓示で「一国二制度の堅持」と主張したが、10月1日に香港で見せた映像は「衣の下の鎧(よろい)」を見せ付けており、「一国二制度」や国威発揚を超えて習主席への信頼性をも傷つけており、中国の争覇の野心の前に国家統一そのものが遠のく契機ともなったのではないか。関連して今後の香港の民主化運動や台湾総統選の動向の注目度が増してきた。

(かやはら・いくお)