トルコ軍シリア越境、クルド人勢力を攻撃

アサド政権軍との衝突に発展か

 トルコ軍は、クルド人勢力攻撃のためシリア国境を越えて武力侵攻した。ところが、シリアのアサド政権軍がクルド人勢力と連携して、シリア北部に展開したことにより、今後トルコ軍との衝突に発展する可能性も出てきた。一方、トランプ米大統領は、議会や軍からの批判を受け、トルコに制裁を発動、米軍の一部残留を決定した。(カイロ・鈴木眞吉)

IS復活の可能性も

 トルコ軍による越境軍事侵攻のきっかけは、6日にエルドアン・トルコ大統領と電話会談したトランプ氏が、トルコによるシリアへの越境軍事作戦を黙認、シリア北部の米軍を撤退させると表明したことによる。

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 トランプ氏は7日、「終わりのないばかげた戦争から抜け出す時が来た」とツイート、2020年の大統領選再選に向けての実績にしたい本音をのぞかせた。

 米軍部隊は7日、シリア北東部から撤収を開始した。

 米軍に協力してきたクルド人民兵組織を含むシリア民主軍(SDF)は米国の発表を「裏切り行為」と糾弾、トランプ氏は忠実な協力者を見捨てた形だ。

 トルコ軍は9日から作戦を開始、在英のNGO「シリア人権監視団」によれば、15日までに、民間人を含む260人が死亡、16万人が避難を余儀なくされた。

 トルコ軍はまた、シリア北部の40以上の村を制圧、クルド人女性政治家など民間人9人を処刑したことから、国際社会に衝撃が広がった。

 ヘイリー前米国連大使が、「(クルド人勢力を)見殺しにするのは大きな過ちだ」と述べ、グラム米上院議員が「米国は信頼できない同盟相手というメッセージを送る」と指摘するなど、トランプ氏は与党・共和党からも批判された。

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9日、シリア北東部ラスアルアインで、トルコ軍による爆撃で煙が立ち上る中、トラックに乗って避難する市民(AFP時事)

 エスパー国防長官は13日、トランプ氏がシリア北部に駐留する米軍の撤収開始を命じたと明言。規模は約1000人。11日に米部隊がトルコ側から砲撃を受けるなど、今後駐留米軍が、トルコ軍とクルド軍との間の戦闘で、被害が拡大する可能性を危惧したものだ。

 トランプ氏は13日、「トルコ国境の激しい戦闘には関与しないことが極めて賢明な策だ」と述べ、全面撤退と戦闘不介入の意向を表明。シリア北部に駐在する米外交団も現地を離れた。

 しかしトランプ氏は14日、国内外からの批判を受け、トルコに経済制裁を科した。対象はアカル・トルコ国防相ら閣僚3人と、国防省とエネルギー天然資源省の両省。さらに今年5月に25%に半減された鉄鋼関税を50%に戻す、とした。大規模な貿易交渉も即時停止する。

 もう一つ見逃せない問題は、過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭の危険性だ。

 クルド当局は13日、シリア北部の避難民キャンプから、ISの外国人戦闘員の家族ら785人が逃亡したと発表。

 施設には、1万数千人の元IS戦闘員が拘束中とされ、なお国内に潜伏する残党が、クルド勢力とトルコ軍との戦闘の隙を突いて、勢力を盛り返しかねないとの懸念が現実化している。トランプ氏は対IS対策のため、一部米軍部隊の残留を決めた。

 国際社会からの厳しい批判に対しエルドアン氏は15日、「われわれの目標が達成されるまでやめることはない」と述べた。

 トルコ軍の侵攻を受けて、シリア政府軍もSDF支配地域への展開を開始しており、情勢はいっそう複雑化の様相を呈している。