22カ国対中非難書簡の意義
東洋学園大学教授 櫻田 淳
「西方世界」の意思表明
「人権」も加わった第2次冷戦
去る7月8日、国連人権理事会に宛てて、中国・新疆ウイグル自治区内におけるウイグル族や他の少数民族の処遇に絡んで、中国政府の対応を非難する書簡が提出された。
書簡に署名したのは、オーストリア、豪州、ベルギー、カナダ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、アイスランド、アイルランド、日本、ラトヴィア、リトアニア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス、英国といった22カ国の大使である。
ウイグル族の処遇に懸念
「ロイター通信」(7月10日配信)記事に拠(よ)れば、この22カ国書簡では、「新疆地区で特にウイグル族など少数民族を対象とした大規模な収容施設での不法な拘留や幅広い監視が行われている」という趣旨の報告に懸念が表明された上で、「最高水準の人権を維持することは人権理事会の理事国である中国の責務である」と強調されている。
この「ロイター通信」記事は、「これは新疆への初めての協調的な対応だ」という西側外交筋の評価も伝えている。確かに、米国が人権理事会の枠組みから離脱している現状に照らし合わせれば、この22カ国書簡は、ウイグル人権案件での「西方世界」の一致した意思を表明したものとして評価されよう。
これに対抗する体裁で、7月12日、ロシアやサウジアラビアをはじめとする37カ国は、この案件での中国擁護を趣旨とする共同書簡を公開した。「AFP通信」(7月13日配信)記事に拠れば、この書簡には、「われわれは、人権の分野における中国の顕著な成果をたたえる」「テロリズムや分離主義、宗教の過激主義が、新疆の全ての民族に多大なダメージをもたらしていることにわれわれは留意している」と記されている。
この共同書簡に署名した37カ国には、ロシアやサウジアラビアに加え、中国との経済上の結び付きが強いアフリカ諸国、そして北朝鮮、シリア、ベネズエラ、キューバといった国々が入る。
人権団体の中には、この37カ国を「恥の枢軸」(the axis of shame)と呼ぶ向きも出て来ている。そうした評価は決して不当ではない。
ちなみに、22カ国対中非難書簡の提出後、中国共産党政府の「対外硬」性向を反映するメディアとして知られる「環球時報」は、その書簡に反駁(はんばく)する趣旨の報道記事を配信している。
記事には、「中国非難22カ国には開発途上国は一つも含まれていない」だの「22カ国の人口はせいぜい5億である。彼らは世界では少数派であることを知るべきである」という弁明が並ぶ。「故に、『西方世界』諸国よりも、自らに理解と支持をしてくれる国々を多く集める中国にこそ、理がある」。これが、「環球時報」記事に反映された中国共産党政府の論理である。
37カ国対中擁護書簡は、そうした中国政府の論理と意向を体するものになっている。そこには、「権威主義」国家同士の親和性が浮かび上がる。
旗幟を鮮明にした日本
故に、少なくとも表向きは「正常な軌道に戻った」と評される日中関係とは裏腹に、日本が22カ国対中非難書簡に名を連ねたのは、誠によろしき対応であった。22カ国書簡の意味は、専ら「経済」と「安全保障」に絡む米中確執の文脈で語られた第2次冷戦の風景が、人権を切り口にして「西方世界」全体を覆うものになったことである。
こうした情勢を前にして、日本が「西方世界」国家としての旗幟(きし)を明確にすることができたのは、重要なことであった。「中国と喧嘩(けんか)しない」のは、日本の対外政策上の方針であるとはいえ、それへの考慮が日本の「西方世界」国家としての軸足を揺るがせてはならない。当節、「曖昧な姿勢」に走ることの弊害は、強調されてよい。
(さくらだ・じゅん)






