ベネズエラで政治対立から半年、大統領派優勢も国民は困窮

 政情不安が続く南米ベネズエラで、野党指導者のグアイド国会議長が反米左派マドゥロ大統領の退陣を求めて暫定大統領を名乗ってから半年が過ぎた。マドゥロ氏は反大統領派の抑え込みに成功しているが、国民の生活は困窮を極めているのが現状だ。(サンパウロ・綾村悟)

グアイド氏は国軍掌握に失敗

 1998年の大統領選挙に出馬した故チャベス大統領は、世界有数の産油国で利権を握るエリート層と既存の政治家を批判、貧富の格差是正と政治改革を国民に訴えて当選した。しかし、政権は「21世紀型社会主義の実現」を訴える中で、次第に独裁化していった。社会保障に偏重した政策と石油公社を含む急激な国有化政策は、ベネズエラ経済を破綻状態にまで追い込んだ。

グアイド国会議長(左)とマドゥロ大統領

ベネズエラのグアイド国会議長(左)とマドゥロ大統領(AFP時事)

 ベネズエラの政治体制は、表向きは議会制民主主義だが、野党が過半数を握る国会は機能しておらず、故チャベス大統領の後継者で2013年に就任したマドゥロ大統領が、政治、司法、立法の三権を実質的に握っている。この体制に異を唱えてきた過去の野党指導者や反大統領派は、その多くが政治犯として収監されてきた。

 昨年5月には、大統領選挙が予定より半年以上も繰り上げられて行われた上、主要な野党指導者は出馬さえも遮られるなど妨害を受けた。この選挙が無効だと主張し、マドゥロ大統領の退陣と大統領選挙のやり直しを求めて、今年1月23日に暫定大統領就任を宣言したのが、野党連合のグアイド国会議長だった。

 彗星(すいせい)のごとく政治の表舞台に現れたグアイド氏は、米国など世界50カ国以上から支持を取り付けるなど、一時は「マドゥロ政権の崩壊は秒読み」とまで言われた。だが、政権交代に必須とされた国軍の掌握に失敗。4月末には一部軍人らと共にクーデターを試みたが、国軍幹部のほとんどはマドゥロ政権に反旗を翻さなかった。

 クーデター未遂事件後、マドゥロ政権はグアイド氏の側近や野党議員を拘束するなど反大統領派に圧力をかけており、首都カラカスでは反大統領派の集会に参加する人数も激減している。さらに、マドゥロ政権は、ロシアやキューバの支援を得て国軍内部の引き締めも図っている。マドゥロ政権は、米国からの経済制裁を受けているものの、政治的には力を保ったままだ。

 一方、国内の経済・社会情勢の悪化は深刻だ。原油施設へのインフラ投資を怠ったことで原油生産が激減。財政赤字と天文学的な超インフレの中で経済は破綻状態にある。凶悪犯罪は後を絶たず、カラカスの殺人率は世界最悪とも言われる。食料や医薬品は慢性的な不足状態にあり、すでに全国民の1割以上に当たる400万人が隣国のコロンビアやブラジルに難民として脱出している。今後、政治・経済両面で状況が改善されない限り、来年末には800万人もの難民が生じるとの試算も出ている(米州機構特別調査委員会)。

 さらに、今年に入ってから全国規模の大規模な停電が相次いでいる。反米左派マドゥロ政権は「電磁波攻撃を受けた」と主張、米国や反大統領派によるサボタージュだと批判するが、国内外の専門家はインフラの老朽化が停電の原因だと断定している。3月に発生した1週間の停電では、電力を失った病院で死者が続出したとの報告もあり、国内インフラも崩壊寸前だ。

 こうした中、5月からノルウェーが仲介役となってマドゥロ政権と野党連合間での対話作業が始まった。対話は選挙時期などをめぐって対立しており、現在はカリブ海諸島のバルバドスで対話が続けられている。

 野党陣営が求めているのは民主的で公正、透明な大統領選挙の実現だ。昨年の大統領選挙では、国会で過半数を握るほどの影響力を持つようになった野党勢力を警戒した大統領側が、あからさまな選挙妨害を行った。

 ベネズエラの現状は、政治が暴走した場合、南米最大の産油国でさえ、驚くほどの短期間で国家が崩壊してしまう怖さを示している。