チベットで宗教弾圧強める中国
拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ
僧侶の数を強制的に削減
宿舎を観光施設に建て替え
香港の勇敢な市民たちは6月9日以来、香港から容疑者の中国本土への移送を可能にする「逃亡犯条例」に反対するデモを何回も行い、特に16日には200万人を超えた。これは香港の人口からすると4人に1人がデモに参加したことになる。今回のデモの特徴としては学生や若者に限らず医者、弁護士、大学教授などの他、事業主までもが市民と学生に同調してデモに参加していることであろう。
日本の報道ではただ単に逃亡犯条例に対する反対であるかのように伝えているが、今回のデモ隊の要求はそのほかにも三つある。一つは外国人観光客や空港を通過するだけの人までもが逮捕され、本国への移送を可能にすることへの危機感による撤回要求と、逃亡犯条例を押し通そうとしている行政長官の退任、さらに重要なこととして香港返還の際、鄧小平がイギリスのサッチャー首相に約束した、いわゆる一国二制度の尊重を要求している。
収容所に送り思想教育
一国二制度に関しては2048年までは香港における社会、政治制度などに手を加えず特別行政区としての扱いを約束したことが、当時、国際社会からも広く注目されたが、残念ながら50年どころか中国はことごとく約束を破り、香港の本土化を加速している。香港問題に関して、彼らの勇気ある犠牲的精神に基づく正義のための戦いを心から支援し、彼らに敬意を表するとともに、日本の政府と国民に、香港の出来事をただの傍観者ではなく、アジアの自由と安定に直結する問題であることを認識し、何らかの形で他の先進国並みの意思表示をすることを希望する。
今回はこの問題に対し深く追究して報告しようと思ったが、チベットでさらに深刻な出来事が起きている。私にとって極めて深刻な問題として取り上げたいのは、私の故郷をはじめ東チベット(現在一部が四川省青海省などに併合)における、かつての文化大革命の再現のような中国政府による宗教弾圧と民衆に対する過酷な政治的改心の強制である。
例えばヤルチェンという寺院では約1万5000人いた僧侶および尼僧に対し、当局により4500人までに制限され、約6000~9000人の僧侶、特に尼僧たちが強制的に寺院から退去させられた。さらに一部は強制的に連行され、特定の収容所で何カ月も宗教を否定するための共産党の思想を勉強することを強制され、もっとひどいことには僧侶と尼僧が一つの部屋に同居させられている。宗教上肉を食べない僧侶や尼僧には肉を食べさせ、また肉を食べる一般の人々には逆に肉食を禁止している。これは嫌がらせというよりも弾圧するための挑発と考えてもよいだろう。
僧侶や尼僧が泊まっていた宿舎を壊して、観光客を受け入れるための施設を新たに建設し、寺院を信仰の対象ではなく観光のアトラクション化させている。寺院の仏画は引き下ろされ、そこに毛沢東と習近平の写真を掛け軸にして仏画のように飾らせている。かつての文化大革命の時代のように民衆に集会への参加を強制し朝から晩まで共産党の思想を聞かされ、反対の意思表示をする人間に対しては銃口を向け、手洗いにも当局が同行するありさまである。
各家には番号を振り、各個人には写真付きの身分証明を発行し、全国どこでも追跡できるような制度を確立している。私の故郷の県内69カ所の寺院には共産党員が4人ずつ配置され、寺院への出入りを監視している。さらに今まで配給したパスポートも全部回収されており、再発給には手厳しい調査などを課し、ほとんど発給不可能な状況になっている。これらのやり方は私の故郷に限らず、東チベットはもちろん、チベット全土に拡大しつつある。
弾圧に目瞑る日本政府
米国務省は6月21日、世界各国の信教の自由に関する年度報告を発表し、その中で中国による宗教弾圧に関して厳しく言及している。しかし、残念ながら日本政府は中国による宗教弾圧、民族浄化、香港や台湾問題および日本自身の領海をも侵害する領土拡張にまで目を瞑(つぶ)っている。正義感や確固たる価値観を持たない民族や国は、結局他国や自分たちが機嫌を取っている相手国からも軽蔑の対象になるのである。






