クロアチアとブルガリア、中国IT御三家が触手

中国「一帯一路」最前線 バルカンに吹く風 (8)

 「クロアチアはBのつく首都の国にいつも支配されてきた」

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 首都ザグレブのドイツ系IT(情報技術)企業に勤めるデーヤン・シルコフスキー(42)氏は、クロアチアの歴史を語る。

 「10世紀に王国樹立したクロアチアに、最初に征服者としてやって来たのはハンガリー王国で首都はブダペスト。次がハプスブルク帝国。首都ウイーンはクロアチア語でベーチュ。旧ユーゴスラビア時代には、ベオグラードに牛耳られた」と述べた上で「EU加盟を果たした今は、本部のブリュッセルの指示に従わないといけないし、最終決定権はベルリンが握っている」と言う。

 大国に翻弄(ほんろう)され続ける人口440万人の小国クロアチアの悲哀が詰まっている話だ。

  「21世紀はBEIJING(北京)かもしれない」と振ってみた。

 シルコフスキー氏は最初、そんなばかなといった顔をしながらも、そのうちまんざらでもない顔つきになった。

ザグレブ大聖堂

クロアチアのカトリック教会の中心ザグレブ大聖堂

 シルコフスキー氏が思い当たったのは、通信規格づくりで中国の影響力が俄然(がぜん)、強くなってきたことだ。

 今年7月、すべてのものをつなぐ次世代通信「5G」の国際規格を協議する会議が米カルフォルニア州のサンタクララで開催された際、中国のバーゲニングパワーにシルコフスキー氏は強い印象を受けた。

 これまで欧米勢がリードしていた世界の通信規格づくりから、がらりと様相を変え、協議は中国の要求項目を入れることで、なんとか協調を保つことができた。中国の最大のバーゲニングパワーは、総携帯契約件数13億人という、巨大マーケットを持っていることだ。

 バルカンでITに強いのは、クロアチアとブルガリアだ。両国の教育水準は高く国際競争力のあるIT技術者を多く輩出。欧州のITアウトソーシングで、両国が活用されている現実がある。中国も近年、アリババやテンセント、百度(バイドゥ)といったIT御三家が、両国のIT技術者活用に手を伸ばしてきている。

 IT御三家が特に力を入れているのが、ネットによるバルカン各国の特産品の対中輸出だ。中国から欧州に鉄道や海路でコンテナを荷揚げしても、帰りのコンテナは常に空に等しく、この片道の貿易が輸送コストを押し上げているからだ。

 なお、中国IT企業の決済サービスの影響力の大きさは絶大だ。スマホ上のQRコードをかざすだけで、使用できる利便性が支持され、アリババ傘下にあるアリペイのユーザーは現在、8億人だ。国内ユーザーが5億人いる中国では、ネギ1本でもモバイル決済され、現金払いを拒絶する店が少なくなく、乞食でさえQRコードをかざすようになっている。

 アリペイは現在、インド、タイで決済サービスを開始し、エチオピアでは金融インフラの主軸を担うまでになっている。そのアリペイの決済サービスが、バルカンに根を張りだすのは、もはや時間の問題となっている。

(池永達夫)

=終わり=