米ステルス機の残骸、先端技術狙い中国が買取り


中国「一帯一路」最前線 バルカンに吹く風 (6)

 セルビアの首都ベオグラードの国際空港の側に、円盤状をした総ガラス張りの航空博物館がある。庭に並べている20機以上のソ連製ミグ21も壮観だが、目当ては二階に置かれている米軍機だ。

米空軍ステルス機の残骸ベオグラードの航空博物館に置かれている米空軍ステルス機の残骸[/caption]

 階段脇に、レーダーに捕捉されにくい世界初の米空軍ステルス機「F117ナイトホーク」の残骸が置かれている。ここだけは主要部分が、ガラスケース入りだ。1999年3月の北大西洋条約機構(NATO)軍による旧ユーゴスラビア空爆時、地対空ミサイルの攻撃を受け墜落したものだ。

 同機の残骸は地元農民らが回収。中国の外交関係者らは当時、農民から残骸を買い上げた。軍事専門家筋は、この時のナイトフォークが、中国が開発した次世代ステルス戦闘機「殲(せん)20」の技術獲得に利用されたと見る。

 そして同年5月7日、米軍のB-2爆撃機がベオグラードの中国大使館に誤差2㍍という高精度の飛行爆弾JDAMを着弾させ、29人の死傷者を出した。

 米国は中国に対し、誤爆だとして謝罪するとともに、責任者のウィリアム・J・ベネット中央情報局中佐を解雇した。だが専門筋では、米国は敢(あ)えてナイトフォークの残骸を集積していた中国大使館を標的にしたとする観測が専らだ。

 それから10年後の2009年3月22日、ベネット氏は米国で何者かによって殺害される。同年4月の米誌『フォーリンポリシー』は、ベネット氏の過去の経歴が関係している「暗殺」だったと報じた。

 中国の兵器製造コストが、安く抑えられているのは衆知の事実だ。安価な労働力だけではなく、軍事研究や新兵器システムの開発にほとんど費用をかける必要がないことが大きい。

 中国人ハッカーがペンタゴンや民間防衛産業から最新兵器の設計図を盗み出し、外国から合法違法を問わず仕入れたテクノロジーの多くを不法にリバースエンジニアリング(製品分解などによる技術模倣)しているからだ。

 2011年1月、中国を訪問したロバート・ゲーツ国防長官が胡錦濤国家主席と会談した際、中国軍が開発中のステルス戦闘機「殲20」の飛行試験を実施。専門家筋では完成時期は18年ごろとしていたのが、大幅に前倒しされた。ステルス機も残ったパーツなどで、リバースエンジニアリングされた可能性が高い。

 なお今月1日、ドイツのメルケル政権は中国勢による独企業買収を初めて拒否。中国が示していたドイツの工作機械メーカー・ライフェルトの買収を認めなかった。ライフェルトは自動車や宇宙、原子力業界に使用される高硬度金属で最大手のメーカー。中国の買収によって浮上する安全保障上の懸念がドイツ政府を動かした。

 何度も北京を訪問し「パンダハガー」と見られていたメルケル首相だが、やっと目が覚めたということになる。

(池永達夫、写真も)