中国「一帯一路」最前線 ギリシャ・ピレウス港の売却

中国「一帯一路」最前線 バルカンに吹く風 (1)

 「シルクロード経済帯」(一帯)と、「21世紀海上シルクロード」(一路)によってユーラシア大陸を包み込む巨大な経済圏をつくろうという中国の「一帯一路」構想。あちこちでつまずきを見せる一方、地政学的に重要なバルカン半島が一種力の真空状態にあることに目を付け、着々と地歩を固めようとしている。同地域での異型の国・中国の海外展開の実態をリポートする。(池永達夫)

「金の鶏の卵 与えたと同じ」
関税不正や武器売却疑惑も

 ギリシャ最大の港湾都市ピレウスは、首都アテネから南西へ10㌔と近い。ドーム状のターミナル駅を出た途端、年1600万人が利用するピレウス港の客船埠頭(ふとう)が広がり、潮風の洗礼を受ける。ここはキャリーバッグをごろごろ引きながら、エーゲ海の島々を巡る客船に乗り込む人々の群れで、常にごった返している。

ピレウス・コンテナ港

中国が買収したピレウス・コンテナ港

 その港湾に中国がやって来た。その一角にある「ピレウス港湾公社」(PPA)本部には、ギリシャ国旗と並び五星紅旗がはためく。

 中国が照準を合わせているのは、観光港湾ではなく、物流拠点を担うピレウス・コンテナ港だ。

 ギリシアが無計画な公共事業やバラマキ行政によって財政難に陥ったのは10年前のことだ。この深刻な財政赤字が他国にも波及、ユーロ危機を招いたため、EU(欧州連合)がギリシャ救済の条件の一つとして出したのが国家財産の売却だった。左翼政権は渋々これを認めた。

 このチャンスを見逃さなかったのが中国だ。

300

 中国国有企業の海運最大手COSCO(中国遠洋海運集団)は、ピレウス港の三つのコンテナ・ターミナル運営権を30億㌦(約3300億円)で手に入れ、2016年には、満を持して同港全体を買収した。11人いたPPAの取締役会から7人のギリシャ人が去り、新たに同数の中国人役員が着任している。

 これに対しピレウス港湾労働者組合のゴコス委員長は「わが国最大の港湾運営権を、中国に譲り渡すなんて、金の鶏の卵をくれてやったのも同じだ」と言う。

 ゴコス氏が言いたかったのは、利潤を生み出す港湾を他国に売り飛ばすというのはばかげているという話ではない。

ゴコス・ピレウス港湾労働者組合委員長

港湾運営権の中国への売却を批判するゴコス・ピレウス港湾労働者組合委員長

 「海は公共のものだし、誰のものでもない。物流拠点となる港湾も、海と同様、公共性が高い。それを専制的な国が恣意(しい)的に使えるようになるのは、これまでピレウス港で働いてきた誇りが蒸発してしまいそうな気分だ」と言う。

気になるのは、中国サイドの使用実態だ。

 なお4月21日付の香港紙・サウスチャイナモーニングポストは、「ピレウス港で中国からの輸入品通関時、インボイス(取引貨物の明細)改竄(かいざん)などによる関税のごまかしやVAT(付加価値税)脱税を図っている疑惑がある」と報じた。

 ピレウス港では、中国の犯罪組織が絡んだ脱税犯罪だけでなく、不法移民行為や武器搬入疑惑も浮上している。

 司法の独立がなく、メディアによるチェック機能も期待できない共産党一党独裁政権の中国では、当局の犯罪が拡大再生産されやすい体質を持っている。

 その中国の犯罪体質の“輸出”疑惑に対しゴコス委員長は、「港湾労働者は、大量のコンテナを処理はするが中身までは分からない」と正直に答えた上で「EUの犯罪監視委員会が、脱税犯罪に詳しいイタリア人専門家をこの捜査に当たらせている」ことを明らかにした。