ウイグル人の避難所・トルコ、中国の圧迫逃れ6万7千人

中国「一帯一路」最前線 バルカンに吹く風 (7)

 トルコ最大の都市イスタンブールの中心街から西へ約40㌔、アタチュルク国際空港に近い郊外に、ウイグル人が集まって暮らしているセパーキュイ地区がある。その一角にある、ウイグル人イスラム教導師のハジ・アリアクバル氏(42)の自宅を訪ねた。

 家にはウイグル人留学生2人とビジネスマン2人が待機してくれていた。

 留学生たちはエジプトからトルコに避難してきた若者で、名前は出さないでくれという。中国当局に知れたら、新疆に住む家族に迷惑が掛かるのを恐れているのだ。

 「3年間でエジプトにいる3000人以上のウイグル人留学生が、中国当局から帰国を促された」と言う留学生は「エジプトの警察官によって身柄を拘束された友人もいる」と述べ、「中には76人の学生が74日間、カイロの警察署に拘束されたケースもあった」と告発した。

 「こうしたウイグル人留学生たちの中国送還は、パキスタンでもあった」とアリアクバル氏は語る。

 イスタンブールには、ウイグル人留学生たちの一斉帰国を促す中国当局の手を逃れて、一時避難している青年たちが少なくない。

 内部引き締めを図る習近平政権は、海外のウイグル人を呼び戻して思想チェックを入れ、問題があれば解決するまで拘束し続ける方針だ。

 イスラム世界の盟主役を自任するトルコのエルドアン大統領は、9年前に中国新疆のウイグル人が迫害された時、受け入れを表明。アリアクバル氏は「現在のトルコ在住ウイグル人は6万7000人に達し、トルコ国籍を付与されたウイグル人も3000人を超える」と語る。

 同じイスラム国家でも、札束攻勢の中国に屈するエジプトやパキスタンと違い、トルコは苦しむイスラム同胞に積極的に庇護(ひご)の手を差し伸べる。

 それでもトルコ在住ウイグル人の警戒心は強く、友人や家族とのコミュニケーション手段にも気を使う。中国人がよく使う携帯チャットアプリ微信(WECHAT)は、中国当局に監視されているため使用しない。

 普段でも言動には注意する。中国政府に批判的な人物の言動を、公安当局に告げ口をする「番犬役」を買って出る海外在住中国人は少なくないからだ。

 2人の子供を中国に残してきたウイグル人ビジネスマンは「9歳と15歳の2人の子供と90歳の父親は現在、いずれも所在が知れないままだ」と苦しい胸の内を明かす。

 海外在留の中国人の言動一つで、故郷の家族が犠牲になるような国に、多民族国家の活力を引き出す求心力はない。強権統治の手法を、海外でも用いる監視国家・中国の最大の矛盾だ。自国民のコミュニティーを国家権力の重石(おもし)で押しつぶすようなことをしながら、ユーラシア共同体を語る一帯一路は机上の空論でしかない。たとえ形はできたとしても、生命(いのち)の血流が通っていない。

(池永達夫)