セルビア・ハンガリー高速鉄道建設、欧州委が調査に乗り出す
人口約700万人のセルビアは、1990年代の紛争で崩壊した旧ユーゴスラビア連邦の七つの国の一つ。まだ欧州連合(EU)には正式加盟を果たしていないが、EUから「加盟候補国」に認定されている。
そのセルビアが、中国との関係を急速に強めている。背中を押しているのは、一帯一路を国家プロジェクトとする中国側の積極的アプローチだ。
ここ4年間に、習近平国家主席と李克強首相が相次いで訪問。一帯一路の一角を担う道路や高速鉄道などのインフラ整備へ、36億㌦(約4000億円)の借款を行うことを表明。昨年11月にはセルビアとハンガリーを結ぶ高速鉄道建設の起工式が行われた。
中国はギリシャと欧州の中部、東部をつなぐ輸送インフラを整備し、新たな物流網を作ろうとしている。ギリシャのピレウス港は海の拠点であり、セルビアの首都ベオグラードは陸の拠点になる。その戦略的要衝の地を確保すべく、中国は首脳陣を送り込み、巨大資本を投入、国を挙げて取り組んでいる。
中国は2014年、セルビアやマケドニア両国と「陸海エクスプレス連絡輸送」建設計画で合意済みだ。ピレウス港からマケドニアを抜けてセルビア、ハンガリーへと続く高速鉄道網がつながることになる。
セルビア・ハンガリー高速鉄道は、両国の首都であるベオグラードとブダペストを結ぶ延長350㌔の鉄道だ。運行が開始すれば両都市間の移動にかかる時間は、これまでの8時間から3時間足らずにまで短縮される。同鉄道の建設工事は中国鉄道総公司をはじめとする中国企業グループが請け負っている。
その建設現場に向かった。ベオグラードから北に100㌔の地点だ。ヒマワリとトウモロコシ畑に囲まれる形で高速鉄道の敷地が整備されている。ただまだ、むき出しの赤土のままで、埋め立て用の土砂を運ぶトラックこそ出入りしているが、現場を整備する労働者が少ない。
前後4㌔が見える小高い丘から眺めても、せいぜい10人。側溝を整備しているだけだ。 そのセルビア人ワーカーに「中国人労働者はどうしたのか」と聞いた。
「彼らは春、中国に帰ってしまった。10月には来るというが分からない」
分からないというのは、セルビアの冬は厳しく、雪に閉ざされる冬の前に来ても、大した仕事はできないので、セルビア人ワーカーでさえ、いぶかっているのだ。
実はEUの執行機関である欧州委員会が、この高速鉄道プロジェクト調査に乗り出している。
調査は総工費29億㌦(約3300億円)の鉄道建設の実行可能性を資金面から検証。また大型輸送プロジェクトについては、公開入札を実施しなければならないと定めたEU法を順守したかどうかチェックされる。セルビアはEU未加盟だから、厳しい制裁はないものの、EU加盟国のハンガリーはそうはいかない。セルビアとハンガリーを結んでこそ意味のある高速鉄道インフラということで、しばらく中国は鳴りを潜め、様子見という状況だ。
(池永達夫)







