新型肺炎 情報統制強める中国

拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ ギャルポ

もっと多い実際の犠牲者
治療でも支配下の他民族差別

ペマ・ギャルポ

拓殖大学国際日本文化研究所教授
ペマ ギャルポ

 世界中が中国発の新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)によって深刻な人命の犠牲と大規模な経済的損害を被っている。多くの国々が中国からの入国者を拒絶する策を取っているのに、我が日本は習近平国家主席への気兼ねと中国への損得から、いまだに部分的に中国からの入国を禁止するのみで、多くの感染者を出している日本からの入国を拒否する国も出始めている。

 中国本土においては政府の対応に対して命懸けで抗議する学者や人権運動家が目立ち、当局が彼らを逮捕監禁しているさまを、外国では民主主義つまりデモクラシーに対し、中国のコントロラシーつまり統制主義と皮肉交じりに表現している。しかし残念ながら日本では大きな国益よりも野党による与党の個人の問題に対する質問に時間を費やし、スタンドプレーに終始し、国民の生活や国家の包括的国益をないがしろにしているありさまである。

来日の余裕ない習主席

 野党は国民の命と国家の繁栄を重視する健全振りを示さない限り、与党の足を引っ張る存在となり、結果的には国益に多大な損害を与えることになる。その自覚に基づき本来野党として務めるべき役割を果たしてほしいと願うのは多くの国民の本当の気持ちではないだろうか。このままではオリンピックの開催すら危うくなろう。現に3000人近くの死者を出し、8万人を超す感染者(4日現在)が出ている中国では、恒例の全国人民代表大会の延期にまで及んでいる。

 また日本政府および財界が切望している習主席の国賓としての来日に関するハイレベルの準備協議も2回流れている。このこと自体は反対の立場を取ってきた私としてはある意味で歓迎すべきことである。なぜならば、このままだと習主席は日本に来る余裕などないからである。もちろん、これで習主席を国賓として招くという愚かな企てそのものが消えたわけではない。

 中国における新型ウイルスの犠牲者数は、当局の発表より10倍はないにしても5倍はあると想像できる。中国政府は世界各国に大臣級の要人を派遣し、この問題の深刻さを払拭するよう努めると同時に、国内のあらゆる報道機関へのさらなる統制を厳しく行っている。また国内から漏れ出た、軍の生物兵器研究所からのウイルス流出説についても、国連機関などに働き掛け、必死の否定工作を行っている。現段階では確信的な情報が存在しないが、いずれ真実が現れると信じている。

 既にウイルスは中国統治下のチベットやウイグルなどの奥地にまで広がっており、現地からの命懸けの情報発信によると、中国人が優先的に治療を受け、彼らの支配下における他民族に対しては、差別と偏見を躊躇(ちゅうちょ)なく表している。いずれにしても一日も早くこの悪夢から世界の人々が解放され、一日も早く正常な生活ができるように願ってやまない。

 ウイルスとは直接関係ないが、私は文化的に他民族や他国を汚染する目に見えない現象は他にもあると最近痛感した。その一つの例は人々の名前の付け方である。この名前の付け方はそれぞれの国の宗教的価値観、歴史的背景などが潜む民族のアイデンティティーである。河野太郎前外務大臣は、日本人は名字を先にし、名前を後にするのが望ましいと公言し、その後、外国の幾つかの新聞は実際タロウコウノではなく、コウノタロウと紙面上で記すことになった。だが本家本元の日本はアメリカをはじめ西洋に対する忖度(そんたく)や劣等感なのか、いまだに日本国の外務大臣の正論を無視している始末である。

目に見えぬ文化的感染

 私は最近、2回ほど海外出張の際、マイレージカードを日本式に表記しているため加算を拒否された。これは空港のグラウンドスタッフの問題というより、日本社会のゆがみがそうさせているように思った。他にも日本国内のさまざまな社会問題などを見ても、元来日本の素晴らしい価値観が、外来志向の目に見えない文化の浸透により破壊されているように感じる。ウイルスの被害は目に見えるが、目に見えない文化的感染が広まっていることにも注意を払うべきであると思うこの頃である。