減速する中国海軍の空母建造

元統幕議長 杉山 蕃

艦載機開発遅延が原因か
増強の柱、強襲揚陸艦に変更も

杉山 蕃

元統幕議長 杉山 蕃

 昨年は、米中摩擦・英国の欧州連合(EU)離脱をはじめ大国の国益の根幹に関わる動きがあり、世界経済もその成り行きに右顧左眄(さべん)するところ大であった。軍事に関してはイラン核開発・ホルムズ海峡問題、北朝鮮弾道弾開発問題、シリア内戦等、残念ながら情勢好転のニュースに接することはできなかった。そんな中で、12月に入り中国空母開発に関し耳をそばだてるに足る報道がなされた(産経)。今回は本件に関し所見を披露したい。

エンジンの性能に問題

 中国空母建造計画は、就役中の「遼寧」(約6万㌧、ソ連空母「ワリャーグ」を廃材から復元)を訓練・試験艦と位置付け、新たに国産空母を4隻建造し、西太平洋を主舞台に外洋能力を保持する。時期的には2030年を目途(めど)とするというものである。現に国産1番艦は、遼寧と同型のスキージャンプ方式で、艤装(ぎそう)作業を終了し、目下試験運用段階にある。2番艦は江南造船所で4年前から建造が始まっており、蒸気カタパルトを有する平坦甲板、8万㌧級の大型空母と見られている。3・4番艦については各種情報が交錯していたが、今回「4番艦の建造計画を凍結」「2・3番艦の離陸方式は蒸気カタパルト」の報道がなされたものである。

 一時は、原子力空母、電磁カタパルトの採用等が噂(うわさ)されたが、今回の発表により、中国海軍拡張計画が減速のやむなきに至っていることが明らかになった。中国海軍艦艇の建造は、空母を中核とした機動打撃群の構成所要を主体として行われていると見られていることから、「戦略原潜」を除く各艦艇の建造にも変化が生ずるものと考えられる。空母建造減速の原因については各種興味、推論のあるところである。

 新聞報道では経済減速による予算節減を挙げているが、筆者は必ずしもそうではないと考えている。その大きなものは艦載機の開発遅延にある。半年前に本欄で述べたごとく、艦載戦闘機「J15」の開発が進んでいない状況に変わりがない。J15は、ロシア戦闘機SU33の試作段階の設計図をウクライナから入手、コピー生産したものであるが、エンジンはロシア製AL31をコピー生産したWS10を用いざるを得ず、本エンジンの性能・信頼性は、ロシア製に比し数段落ちるのが実情のようである。ロシア製エンジンは、ロシアから正規に導入したSU27、SU35の機数に見合った台数しかなく、知的財産権に係る問題を生起しながらコピー生産した国産機(J11B)は、エンジン問題で性能・信頼性で第一線機とは言えない状況にあるという。

 ちなみに最大推力を比べると、時代を画した露AL31、米F110は共に13㌧程度であるが、最近はステルス機時代に入り、露AL41、米F135は最大推力18㌧を超えるエンジンが実用に入っている。我が国もスリムな口径を特徴とするF9エンジン(推力15㌧以上)の開発に成功、列国に伍した力を持っている。このような軍事技術の情勢から、中国空母部隊建設計画は、搭載機、就中(なかんずく)、高性能航空エンジンの開発が遅延するまま、船体だけ先行させることの不具合が露呈してきた状況で、しかるべく見直しを迫られたものと考えるのが適当であろう。

ロシアの技術も未成熟

 中国の兵器体系の基本は、ソ連・ロシアからの兵器あるいは生産技術の導入であり、近代化を進めた現在も変わらない。ところが事、空母に関してはロシア自体が成熟した技術を持っているわけではない。1970年代から「ミンスク」でおなじみのキエフ級軽空母を開発運用してきたが、予定の成果を得られぬまま短期間で退役。現在唯一保有する「クズネツォフ」も、先年シリア内戦に鳴り物入りで参画したが、着艦事故で成果を上げられぬまま撤退。12月には修理中のムルマンスクで火災を起こす等の「テイタラク」で、中国にとってロシアから技術的支援を得ることはほとんどない八方ふさがりの状態と推察する。

 報道では中国経済成長の減速に伴う、予算的制約を推論する向きもあるが、ここ数年安定した伸び率(約7%)で国防費を増加させている状況から、主たる原因とは考えにくい。むしろ、強力な海軍建設戦略の内容を、空母中心から、異なる方向、例えば強襲揚陸艦、自立型致死兵器システム(LAWS)等に変更する可能性もあり、今後の推移を厳重に見守る必要があると考えている。

(すぎやま・しげる)