習近平主席の空軍重視の含意

拓殖大学名誉教授 茅原郁生

宇宙戦力化加速する中国
国土防空型から攻防兼備型へ

茅原 郁生

拓殖大学名誉教授 茅原郁生

 中国人民空軍は今秋、創設70周年を迎え、その記念行事として習近平国家主席は統帥の根源たる中央軍事委員会の全メンバーを従えて中国空軍博物館を訪問した。そこで公務に殉じた空軍烈士碑に献花するとともに、70年の歴史や発展を記録したテーマ展を見学し、空軍先進機関の代表や英雄模範代表に接見・講話した。その講話では「人民空軍は国家の安全に不朽の功績を立てた」と称賛し、「今や新たな歴史的出発点に立っている」として「新時代の軍事戦略に沿って世界一流の空軍を築くように」と檄(げき)を飛ばした。

軍閥的な陸軍権力解体

 空軍近代化についての具体的な内容は空軍参謀が、主要戦闘兵種である空軍は「国土防空型から攻防兼備型への転換を早め、航空作戦半径を遠海、外洋へ伸ばす体系的な作戦能力の新段階に入った」との習主席の認識を披露した。その上で、具体的な近代化目標を「戦闘機はJ10戦闘機からJ16、20、新型戦略爆撃機・H6K、早期警戒機KJ2000や空中指揮統制機KJ500、大型輸送機Y20などの国産機の発展と、これら4世代機を基幹とする早期警戒、迎撃、爆撃、偵察、輸送体制の構築」と、国営通信を通じて強調した(新華社2019年11月3日)。

 中国では人民解放軍は、中国共産党の軍隊として陸軍が圧倒的に強い存在であるが、胡錦濤時代に海・空軍重視が強調されてきた。実際、これまでは海軍重視で戦力強化がまず進められてきた。中国海軍は今日、740隻の艦艇を保有し、遠洋展開のできる駆逐艦・フリゲート艦は80隻、潜水艦60隻の実戦力を有し、055型など1万トン級駆逐艦の就役など、既にアジア最大の海軍となっている。戦略も近海防御戦略から近海防御・遠海護衛戦略に発展し、中国艦隊は近年、第1列島線を越えて西太平洋への進出が増えてきた。

 空軍の近代化については、2012年以降、習主席がトップの座に就いてから強調されはじめ、本欄既報(「習主席の空軍重視と軍改革」14年8月7日付)のように、伝統的に陸軍優位の中国で用心深く空軍重視が強調されてきた。15年頃から始まった大規模な習軍事改革では、それまで地方に根差した軍閥的な陸軍権力の解体と同時に空軍重視も着手されてきた。

 具体的には7個の大軍区を解体して陸軍を一体化し、その総司令官を任命して海・空軍と同列の軍種に並ばされた。その上で軍政と軍令の任務を分化し、軍種司令官には軍隊建設(軍政)を本務(陸海空司令官には軍事力建設など軍政専念化)とする改革が進められた。その他の習軍事改革には、第2砲兵のロケット軍化、サイバーなどを電子・電磁部門を担当する戦略支援部隊の創設など史上最大の改革として大鉈(おおなた)が振るわれたが、新しい戦争の趨勢(すうせい)に応じて空軍には航天(宇宙)部門を担わせており、空軍重視は習軍事改革の重要な一環として注目されていた。

 そもそも中国の軍事力は1927年の南昌蜂起が起源で、爾来(じらい)、蒋介石指揮の国民党軍に農民などから成る共産党軍が革命戦争を挑み、その国共内戦は地上戦が主体で進められた。49年に解放軍と命名された労農紅軍(陸軍)によって革命成功は勝ち取られてきた。その最中の4月に海軍が創設され、空軍は建国後の11月に創設された。長い間、空軍は陸・海軍の支援機能に甘んじてきたが、今日、攻防兼備戦略によって地域防空を担う空軍となり、作戦機2720機は数的にはロシア空軍を超える世界第2位の航空戦力に発展している。

 その質的戦力は、今日でもジェットエンジンの開発に弱点があり、全体的には第3世代機が主体で、第4世代機やステルス性の第5世代機はまだ少ない。それでも無人機では翼竜Ⅰ・ⅡやCHシリーズの長距離偵察機などを大量に備えており、米軍に次ぐ実力を保持している。

露空軍との演習を拡大

 加えて近年、中国の宇宙開発は北斗衛星の打ち上げで測位システムを完成させるなど広範に進展しており、宇宙空間の戦力化も含めて空・天(宇宙)一体化の中で空軍強化は進んでいる。さらに看過できないのは、ロシア空軍などとの共同演習の強化と拡大で、戦略爆撃機などの第1列島線を越えた西太平洋への遠距離飛行訓練が頻発していることである。

 今次、習主席の空軍70周年記念に際して見せた空軍重視の姿勢は、空軍近代化の促進だけでなく、強い陸軍との党軍関係を意識した陸軍の抑制や、次世代を睨(にら)んだ宇宙戦力化の加速も含意された関連動向として注視する必要がある。

(かやはら・いくお)