中国共産党4中総会の怪
拓殖大学名誉教授 茅原 郁生
経済より政治引締め優先
揺らぐ習一強体制の改善急ぐ
中国で10月に共産党第19期中央委員会第4回会総会(4中総会)が1年8カ月ぶりに開催された。そこでは中国が直面する経済や香港問題等の難題ではなく、「中国の特色ある社会主義制度の維持・改善と統治システムと統治能力の現代化」が主テーマとされ、党や国家の統治能力や管理体制の強化が取り上げられたのは何故(なぜ)か? 先のペンス米副大統領の演説で、米中角逐が貿易戦争から先端技術や金融問題に加えて人権・民主化・香港関与にまで拡大する趨勢(すうせい)にあり、貿易戦争に伴う中国製造業の低迷が6~9月の国内総生産(GDP)成長率をレッドライン6%に低下させる深刻な経済、一帯一路外交戦略の不振などの経済・外患の課題を直視しないで政治的引き締めなど内憂対処を優先重視したところに習政権が抱える難題の深刻さを見ることができる。
独裁統治に体制疲労も
中国政治は共産党独裁体制下で進められていることは周知であるが、4中総会の問題点を見るに当たって、ここで中国の統治システムを整理しておこう。人口や国土の広さなど世界最大規模の国家の統治は9000万人もの共産党員を動員して各級政府・機関さらに企業の全組織にまで支部委員会を配して上意下達式に中央集権的統治に徹している。その統治の進め方は、5年ごとに最高決議機関・党大会を開催し政策方針や路線を決め、中央委員など執政幹部を選出する。大会閉会中は中央委員会(19期では委員約202人、国民700万人に1人の割合となる)が決議機関となり、同候補委員169人などの中枢幹部を含めて年に1回以上総会を開催し、政治局の報告を受け重要政策を決定する。4中総会は10月28日に開幕し、政治局提案の課題を決議して31日に閉幕した。
ちなみに習近平国家主席は、2017年の第19回党大会(19大)と翌春の全人代で党、国家、軍統帥でのトップに就くとともに第1期政権運営を通じて権力を自らに集中し、「習一強」体制を確立してきた。しかし盤石の政権基盤と見られながら、冒頭のように直面する外患・経済難題に正面から取り組まなかった不自然さには二つの見方ができる。一つは共産党独裁統治に体制疲労が出て統治システム改定が喫緊課題となってきたという見方であり、もう一つは習一強体制の揺るぎで、求心力低下や内憂外患から内部固めを急がざるを得なかったとの見方である。
前者の体制疲労は、長期独裁政治を続ける中で、統治システムに緩みが出てきたという見方で、現に習主席は1期政権を通じて反腐敗闘争を進め、「刑は常委に及ばず」の不文律にあっても、序列7位の周永康前常委を終身刑に処すなど仮借な取り締まりを強行してきた。にもかかわらず今日なお多くの党幹部、高官の汚職摘発が後を絶たず、清廉な執政体制に程遠い現状への国民からの批判に備え、国難である米中貿易戦争に一枚岩となった対応できるよう強力な統治体制の改善を急いだとの見方である。
後者は、習主席の反腐敗闘争や強引さが、権力集中の実現だけでなく反発にもつながり、権威や指導力低下を招くなど一強体制を揺るがしてきたことへの対応である。その不安感や懸念が国内外の難題より政権基盤固めを急がせたとの見方である。
そこには、自ら身命を挺(てい)して革命勝利を戦い取った鄧小平時代までとは異なり、革命戦争を知らない戦後世代指導者の登場に当たり政権運用や党軍関係の安定のために「韜光(とうこう)養晦(ようかい)(頭を低くして時期を待つ)」や集団指導体制が推奨されてきた。しかし習主席は中国の大国化を掲げ、集団指導ではなく自らを核心とし、政権2期目には国家主席の期限(2期10年まで)を憲法改定で外しただけでなく、6世代指導者の常委入りを見送っている。
実際、前任の江沢民・胡錦濤時代には遺訓に沿って集団指導体制を守り、その2期目の人事では次世代の指導者を常委に加えて見習いをさせ、政権移行の安定を期してきた。4中総会でも、次期指導者として胡春華副総理や陳敏爾重慶市書記などの名前が噂(うわさ)されていたが、昇格見送りで不文律は守られず、習批判や反発に繋(つな)がっている。
暴露された内憂の重荷
19大で掲げられた「21世紀中葉までに世界最大の国力と影響力の構築(覇権)」も習政権による体制引き締めや強権による求心力強化による手法で追求されることになろう。当面する最大難関の米中角逐も長期継続しようが、持久戦には強いと自負する中国も内憂の重荷を抱え楽観は許されない一幕を4中総会は暴露した。