「自由民主」社会保障改革 「人生100年」、参院選で論戦か
支え手増やすエイジフリーなど
年金だけでは月5万円ほど赤字になり、老後に2000万円の資産形成の必要を唱えた金融庁有識者会議の「高齢社会」報告書に関連して、野党は年金問題を参院選の争点にする構えだ。すでに19日の党首討論で野党各党首が揃(そろ)って取り上げており、自民党は選挙で年金論戦を避けられなくなりそうだ。
自民党の機関紙「自由民主」(6・4)は、令和時代の社会保障改革を岸田文雄政調会長が本部長を務める人生100年時代戦略本部で検討し取りまとめた「人生100年時代の社会保障改革ビジョン」を扱った。5月21日に安倍晋三首相に提出し、首相は「内容に理解を示した」としており、有力な提言となろう。
同紙は「社会保障制度の持続可能性を追求」の見出しで、「人生100年時代や人口減少社会の到来などの構造変化に対応した、新しい『この国のかたち』の基礎となる社会保障の必要性」を背景に、現役の働き手ら年金制度を「支える側」と給付を受ける「支えられる側」のリバランスという「『第3の道』を進める発想を加える必要性」を指摘している。
定年、給付開始など一定の年齢で分けられた「支える側」と「支えられる側」を見直して、「支える側」を増やし、「支えられる側」を減らす創意工夫を加えるわけだ。その一つに「エイジフリー」という言葉で、老後も働く人々を増やす雇用制度改革を掲げている。雇用期間を「縦」に伸ばし、現役時代から多用で柔軟な働き方で雇用の選択肢を「横」にも広げるものだ。定年制度もなくなるかもしれない。
「受益と負担のアンバランスを考慮した給付抑制という(第1の道)や消費税率引き上げなどに伴う負担拡大(第2の道)」は、「100年の安心」と政府が銘打った2004年の年金改革でマクロ経済スライドが導入されたり、民主党政権時代の12年に自民、公明など与野党による「社会保障と税の一体改革」で10%までの消費税率引き上げを決めるといった取り組みがなされてきた。
しかし、それだけでは間に合わず、高齢者にも「エイジフリーで活躍」することを求めている。その大前提となる「健康づくりの抜本強化」も加えられ、これに「女性の活躍社会」を合わせれば、まさに老若男女総動員だ。働けるものには働いてもらわないと、本当に働けなくなった高齢者を支えられない。
進む少子高齢化にある種の悲鳴が聞こえてきそうだが、それを「人生100年時代」とポジティブな表現で包んでいる。現実、人口減少時代に入ったわが国の年金制度は厳しい局面に差し掛かっている。それを踏まえれば、金融庁の「年金だけでは不足だから老後に2000万円備えよう」との「報告」も、あながち庶民感覚を外れてはいないだろう。
民間では金融業界のサイトを見ても、公的年金以外に「豊かな老後のために約3700万円も貯蓄が必要って知ってましたか?」(M証券)、「20年分で3072万円」(R銀行)など3000万円台の試算だ。金融庁「報告」はやや控えめかもしれない。
自民党には「自助、共助、公助」の方針があるが、同ビジョンでも大きなリスクには「共助、公助」で、小さなリスクは「自助で」と述べられている。ところが選挙で「自助」を叫べば反発される。金融庁「報告」が、野党の批判、金融相の受け取り拒否と、政争の具と化した所以(ゆえん)だ。
だが、バラマキの甘言をちりばめた公約で民主党政権は大失敗した。経済状況さえ悪くなければ、率直な議論は理解を得るはずだ。
編集委員 窪田 伸雄











