改善提案で市民満足度が向上 愛知県碧南市

愛知県碧南市長 禰冝田政信氏

 愛知県中部の西三河地域に位置し、海岸沿いが工業地帯として発展したことから外国人が多く住む碧南市。日本人と外国人の共存や市民満足度の向上に取り組む禰冝田政信市長に話を聞いた。
(聞き手=岩城喜之)

外国人が住み易い環境推進
不妊治療に補助金も

人口減少社会に、どう対応していくか。

禰冝田政信氏

 ねぎた・まさのぶ 昭和26(1951)年、愛知県碧南市生まれ。中央大法学部卒。経営コンサルタント会社や中小企業診断士などを経て、平成8(1996)年から碧南市議を3期務める。平成20(2008)年から碧南市長、現在3期目。愛知県市長会会長。

 日本の人口は減少しているが、9市1町からなる西三河地域は人口が増えている。碧南市も、ここ数年は年に300~500人くらい人口が増加している。

 なぜかというと、西三河はトヨタ自動車を中心とするモノづくりの一大拠点だから、工場が多く、働きに来る外国人が増えているからだ。碧南市にも現在、30数カ国の外国人が住んでいて、約7万3000人の人口のうち、外国人が5000人ほどを占めている。一番多いのは、日系ブラジル人だ。

 日本人の若者は大学を出ると、名古屋や東京、大阪など都市部に行ってしまう。そうなると人口は減る一方になる。だから、この地域では人口を増やす政策として、いかに外国人が活躍できる社会をつくるかが重要になる。

 言葉の問題以外にも子供の学校生活など、外国人が快適に生活できるような環境づくりを進め、人口の3分の1が外国人になっても問題ないよう、各種対策に努力している。

 だから人口減少をそんなに心配していない。碧南市は合計特殊出生率も1・6以上あり、全国平均を上回っている。

出生率を上げるために取り組んでいる政策は。

 子供が欲しくてもできない人の特殊不妊治療に対する補助金(助成金)制度を設けている。不妊治療への補助金制度としては、碧南市と東海市(愛知県)が日本有数だろう。それと幼保無償化が10月から始まったが、碧南市は10年ほど前から第3子は保育料・幼稚園使用料が無償化されていた。そういう政策が実を結んだ結果だと言える。

 学研パブリッシングの平成26年「全国主婦の幸せ度調査ランキング」でも、福祉や子育て環境などが評価され、東海3県(愛知、岐阜、三重)で第1位になった。

外国人が増えると、地域のルールをめぐって日本人とトラブルになることも多い。外国人が溶け込みやすい環境づくりをどう進めているのか。

 碧南市に住む外国人は、自国の人たちだけで固まって住むのではなく、日本人が住んでいるところに入っていく人が多い。市としてもいろいろな催し物や日本語教室、料理教室を開くなどして、地域に溶け込みやすくしている。

 学校の連絡事項には「ポケトーク」(多言語対応の翻訳デバイス)をいち早く導入したほか、日本語に堪能な外国人を学校のスクールアシスタントとして雇っている。日本人から言われたら厳しく感じることでも、母国の人から言われれば問題にならない。他にも市のホームページを4カ国語で作ったり、防災メールサービスも多言語で対応している。

 いまのところ外国人がルールを守らなくて問題になっていることはなく、うまく地域に溶け込んでいる。先輩がそうだと、後から来る人もちゃんとしてくれるので、今後も心配していない。

市民満足度(CS)向上を市政のテーマに据えている。成果はどうか。

 CS向上を目標に10年やってきたが、平成20(2008)年と平成30(2018)年のアンケートを比べると、ほとんどの項目で満足度が上がった。「住みごこち」のアンケートも向上しており、客観的なデータとして成果が出ている。

具体的に、どのような取り組みをしてきたのか。

 市の職員に、どうすればコストが下がるか、無駄がなくなるかの改善提案をしてもらっている。市民も自分の納めた税金をできるだけ有効に使ってもらいたいと思っているので、それを追求すると市民満足度が上がるのではと思って力を入れるようにした。

 私が市長になる前にも改善制度はあったが、年間の提案は50件程度だった。それが今年は2000件以上になった。リーマンショックの際に市の税収が落ち込んだためサービスを幾つかカットしたが、市民に実態をオープンにし、分かりやすく説明すると、理解してもらえた。

 そうすると、サービスを削ってもトータルの満足度は上がっていく。市に対する信頼感が出てきているとも言える。

ふるさと納税制度による市への寄付金額が愛知県でトップクラスだが、なぜたくさん集まるのか。

 この5年間、ふるさと寄付金は愛知県でずっと1~2位になっている。昨年は約7億3000万円だったが、今年は18億円程度になる見込みだ。

 碧南市は返礼率3割の基準なので、特にお得というわけではない。うなぎやピーナツ、天津甘栗などで独特の加工技術が市内にあるので、それをうまく健康志向、アンチエイジングなどと結び付けているのが、人気になっているのだろう。

 愛知県内でいち早くふるさと寄付を始めたのも大きな理由だ。これも職員から早めにやったらいいと改善提案があって始めたものだ。最初にお気に入りの中に入ったのがよかった。後からやるには、特徴をうまく出さないと難しい。

300
 碧南市 愛知県中部の西三河地域に位置し、碧海台地と矢作川沖積地などからなる。人口約7万3000人。海岸沿いは工業地帯として発展し、日本のモノづくり文化を支える。白醤油や味りんなど、醸造文化も栄えている。