尖閣領有の既成事実化図る中国

拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ ギャルポ

王毅外相発言は主権冒涜
国益守る意志見えぬ政財官界

ペマ・ギャルポ

拓殖大学国際日本文化研究所教授
ペマ ギャルポ

 11月に中国絡みで二つの国際的論争があった。一つは中国が一方的に「キムチは中国が元祖である」と主張し、国際標準にしようとする中国ならではの傲慢な姿勢が表れたこと。もう一つは中国の王毅国務委員兼外相の「尖閣諸島はわが国のものである」という暴言である。

 韓国は一斉にメディアとネットで猛烈に反発し、結果的に中国側の誤報であったという形で撤回に追い込んだ。韓国の民衆とメディアが祖国の面子(めんつ)に懸けて、中国による韓国の文化を奪おうとする行為に対して堂々と反論し、大国中国の面子を丸ごと潰(つぶ)した形となった。韓国国民の愛国心と正義が、中国の文化的覇権主義に対して良い教訓を与えたと感じられ、私は韓国に対し尊敬の念を抱いた。

度量問われる茂木外相

 一方、日本は24日と25日、2度にわたる無礼極まる王毅外相の根拠のない領有権主張に対し、堂々たる反論が見えなかったのは極めて残念でならない。政界、財界においては媚中(びちゅう)親中派が中枢に少なからず影響力を保持することを考えれば、驚くことではなかったが、メディアや、国家に対し国益を守る義務を負う官界から何一つ反論が起きなかったことは、情けないというよりも驚きの方が大きかった。

 王毅外相は24日、茂木敏充外相との会談の後、共同記者会見で「最近一部の正体不明の日本の漁船が釣魚島(つまり尖閣諸島をわざと中国名で呼んだ)のデリケートな海域に侵入している。中国はそれに対し、必要な対応をするしかない。この問題に関する中国の立場は非常に明快でわれわれは今後も引き続き中国の主権を守っていく」と発言した。

 私の日本語能力が不足かもしれないが、この発言はただ単に領有権を主張するのみならず、明確な脅迫とも受け止められる。私の周囲の政界や知識人の中では、茂木外相は極めて有能な政治家として高い評価がある人物だ。しかし、もし報道が正しければ、その場で何一つ反論できなかったことは、能力の問題ではなく国を守る立場の人間としての度量が欠けているのでは、と感じた。

 王毅外相の狙いは自国に対する習近平政権の体制への評価だけでなく、わざわざ日本のメディアを通して日本の外交のトップの前でこのような発言をすることで、世界に対し尖閣諸島への主権があることを宣言し、既成事実をつくる目論見(もくろみ)があったと断言できる。次はおそらくその主権を具体的に示すために堂々と上陸するための国際世論という基盤づくりもあったと言える。

 中国に詳しい専門家によると中国では「われらが王毅、良くやった」「中国外交の勝利だ」という声があふれ、まるで凱旋(がいせん)した将軍のように喝采を浴びたという。

 日本は和を尊び、礼を尽くす民族であるがために茂木外相はその場での無礼をあえて許したのかもしれないが、戦国武将・伊達政宗の「礼に過ぐれば諂(へつらい)となる」という格言を忘れていたのだろう。普通の国ならば、その日のうちに丁寧に「お帰りください」と言って、帰国してもらうのが常識ではないだろうか。だが、日本は翌日さらに政治のトップである菅義偉首相が会談し、その場でも、その後の記者に対する発言でも王毅外相は、厚顔にも同じ発言を繰り返した。

 その後の国会の質疑などでも、「桜を見る会」問題などについては野党が食い下がりを見せたが、王毅外相の日本の主権を冒涜(ぼうとく)する発言には与野党から質問もなければ、批判もなかったことにさらに驚きと悲しみを覚えた。数日後、自民党の一部の議員からは謝罪を求める行動があったことには多少の安堵(あんど)感を覚えた。

 日本はこれに懲りず、中国の環太平洋連携協定(TPP)への参加を積極的に支援しているようだが、中国が国連に加盟し、世界貿易機関(WTO)に入会し、その結果、何をしたかを考えれば、まるで自分の首を絞める綱を貸しているように見えてくるのは私だけであろうか。

阻止すべき習主席訪日

 また王毅外相訪問前の報道は同外相の訪日目的は、習近平国家主席の国賓としての訪日調整のためであったというが、これだけは国民を挙げて阻止することが、主権を守る国家のなすべきことではなかろうか。