違憲判決の孔子廟訴訟 控訴に賛成した共産党

《 沖 縄 時 評 》

政教分離の党綱領と矛盾 地裁で那覇市が敗訴

違憲判決の孔子廟訴訟 控訴に賛成した共産党

沖縄県那覇市の松山公園にある久米至聖廟(孔子廟)

 那覇市在住の金城テルさんはこのほど、那覇地方裁判所の孔子廟(びょう)裁判に全面勝訴した。この裁判は那覇市が憲法違反をしているか否かの裁判である。その裁判で金城さんは那覇市に勝った。那覇市が憲法違反をしているということを那覇地裁は認めたのである。

 孔子廟訴訟は、那覇市の市有地である松山公園の一部を無料で貸して、久米至聖廟(孔子廟)の設置を許可し設置させたのは憲法の政教分離第20条1項に違反しているから使用料の免除措置は無効であるとして、那覇市は4カ月間の使用料の支払いを当時の那覇市長に求めた訴訟である。

 第20条1項を解説すると、国が特定の宗教団体に政治的または経済的特恵を与えないこと、または、国や国の機関が宗教教育その他の宗教活動をしないことなどが挙げられる。

 那覇地方裁判所は孔子廟を設置した一般社団法人久米崇聖(そうせい)会は那覇市に借地料の全額を支払うように命じた。すなわち、金城さんの全面勝訴である。ただ、これで闘いは終わったのではない。敗訴した那覇市は控訴した。高等裁判所で金城さんの闘いは続いている。

 金城さんが、孔子廟は政教分離に違反していると那覇市を相手に訴訟を起こした時は、前県知事の翁長雄志氏が市長を務めていた。翁長氏はかつて自民党県連の幹部であり、那覇市議会も自民党が与党であった。

 しかし、現在の城間幹子那覇市長は左翼系である。議会の与党は共産党、社民党、社大党と自民党を離党した保守の一部で構成される。控訴に賛成したのは与党と公明党であった。驚いたことに、政教分離に厳しい共産党が一審判決で憲法違反として判決が下った那覇市の孔子廟裁判では控訴に賛成したのである。

◆崇聖会は「宗教団体」

 控訴に賛成したということは、那覇市が孔子廟に無償貸与しているのは政教分離に違反しておらず、年に一回行われる孔子の霊を迎える儀式としての釋奠(せきてん)祭礼は宗教儀式ではないと主張していることを意味する。

 那覇地裁は、孔子廟を管理している一般社団法人久米崇聖会を「宗教団体」であると断定し、孔子廟無償貸与は政教分離に違反するとの判決を下した。久米崇聖会が宗教団体であることは、その名称からも推測することができる。

 久米崇聖会の崇は訓読みすると「崇(あが)める」である。意味は「この上ないものとして扱う。尊敬する。敬う」である。聖は「ひじり」と読む。意味は「徳が高く、あがめられる人。天下を統治なさる方。天子。天下のことを知る人。聖人…」である。

 久米崇聖会は論語は学問であると主張しているが、学問というものは批判し合い、正反合によって発展するものである。久米崇聖会にとって論語は批判できるような学問ではない。崇める学問である。論語を批判してはいけないのだ。論語は普遍的な学問ではなく。聖人孔子が論じた“聖書”であるのだ。久米崇聖会は論語を聖書としている宗教団体であるのは間違いない。

 孔子廟には孔子像が奉られている。それはキリスト教の教会で十字架のキリスト像を奉っているのと同じである。久米崇聖会は宗教団体であり、孔子廟は神社やキリスト教会と同じ宗教建築物である。孔子廟で年1回行われる釋奠祭礼は孔子の霊を迎える儀式である。それは宗教以外の何物でもない。

 日本共産党は、「信教の自由の全面的保障には、政教分離という民主主義的原則の貫徹が不可欠である」と述べ、「国家に関わる問題であり、国家は、どんな宗教にも特典を与えたり、逆に差別的に扱ったりしてはならず、信仰の問題への国家のいかなる介入も許されない」と主張している。

 共産党は政教分離に違反していると、国や市町村を告訴することに徹してきたが、那覇市の孔子廟裁判では孔子廟は宗教施設ではなく那覇市の無償貸与は政教分離に違反していないと主張し、憲法違反であると判決を下した一審判決を不服として控訴したのである。

◆本土と逆の政治方針

 政教分離は民主主義の原点であるとする今までの共産党には見られなかった政治判断である。何度も言うが、共産党が控訴に賛成したということは、明らかに政教分離に違反している孔子廟を違反していないと主張したことになる。今までの共産党にはあり得なかったことである。

 「政教分離は民主主義の原則である」と綱領に書いている共産党は本来、政教分離に厳しく対峙(たいじ)するものだ。那覇市で共産党の政教分離綱領の通りに実行したのが金城さんである。久米崇聖会は宗教団体であり、那覇市が孔子廟建設のために公園を無償貸与したのは政教分離に違反すると那覇市を訴えた。

 金城さんは自民党支持者であったにもかかわらず、孔子廟は憲法に違反していると那覇市を訴えたのである。那覇市長が自民党であろうと共産党であろうとかまわず、憲法違反しているという理由で那覇市を訴えたのだ。政党には関係なく、共産党の政教分離綱領の精神で那覇市を訴えたのである。本来ならば、共産党こそが金城さんを応援すべきである。しかし、実際は敵になっている。ここに共産党の本当の姿がある。

 共産党は普天間飛行場の県外移設を主張していた翁長氏と県知事選で共闘した。ところが共産党は県外移設に反対であることが東京都の小金井市議会で判明した。同市議会は米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の中止を掲げ、国内全体での議論を訴える陳情書を本会議に提出しようとしたが、共産党が反対側に回ったことで見送った。共産党は国内移設に反対であることを明言して、国内全体で議論することに反対したのである。小金井市では県外移設に反対し、沖縄県では県外移設を主張している翁長氏と共闘したのが共産党である。

 政教分離にしろ県外移設にしろ、本土と沖縄では政治方針を180度反対にするのが共産党である。

(小説家 又吉 康隆)