控訴断念は沖縄県の治安維持を破壊

《 沖 縄 時 評 》

那覇地裁の「検問違法」判決、沖縄が暴力革命の標的に

控訴断念は沖縄県の治安維持を破壊

那覇地裁の「検問違法」判決に対して、沖縄県が控訴を断念したと報じる1月30日付沖縄タイムス1面

◆公約違反を追及せず

 沖縄にとって、この1年は今後の政治状況を占う重要な年である。

 保守系の現職市長が惜敗した1月21日の南城市長選を皮切りに、12月の県知事選をにらんで、重要選挙が目白押しである。特に2月4日の名護市長選は、「オール沖縄」が支援する「翁長知事」VS「政府・自民党」の代理戦争といわれ、「三日攻防」に入った現在、票の囲い込みが過熱化している。報道によると、当初有利といわれていた現職の稲嶺進候補に対し、前市議の新人、渡具知武豊候補が激しく追い上げ、大接戦の情勢である。

 圧倒的占有率を誇る沖縄2紙が「民意は沖縄2紙が決める」と豪語する通り、沖縄の選挙の争点は琉球新報と沖縄タイムスが決める。「辺野古が最大の争点」(1月30日付琉球新報)、「辺野古 最大の争点」(29日付沖縄タイムス)と、まるで両紙が申し合わせしたように「辺野古」の大見出しが連日紙面を飾っている。

 稲嶺候補は米軍普天間飛行場(宜野湾市)の「辺野古(名護市)移設反対」の公約で、政府と対決してきただけに、新聞が取り上げる「最大の争点」は強力な追い風となっている。

 沖縄2紙は「辺野古」を最大の争点と扇動するが、有権者の間には、どちらの候補者が当選しても「辺野古移設」を止めることは不可能、という冷めた空気が漂っている。辺野古移設工事は粛々と進行しており、「既に終わった」という人さえいるからだ。

 渡具知候補の出陣式に駆け付けた三原じゅん子参議院議員は、現市長の公約を検証したと述べ、「8年前に公約したことは何一つ実現していない。沖縄の景気は良くなっているが、名護だけは足踏みしている。誰のせいなのか」と稲嶺市政を疑問視した(29日付八重山日報本島版)。

 同じことが翁長雄志知事にも言える。翁長知事は4年前の当選以来「辺野古新基地阻止」の公約を果たしていない。「公約違反」についてはメディアが厳しく追及すべきだが、知事を支援する沖縄2紙が翁長、稲嶺両氏の「公約違反」を追及するはずはない。

 マスコミ主導の圧倒的人気を背景に成立した民主党による政権交代を「失われた3年」と呼ぶ人がいる。名護市長選の争点を「辺野古」と決め付ける沖縄2紙に対し、八重山日報は「失われた8年を取り戻す」選挙と捉えているようだ。冷めた名護市民にとって、実現不可能な「辺野古阻止」というイデオロギーに専心する稲嶺市政は「失われた8年」だったことに気が付いたのだろう。

◆県警の検問は違法?

 選挙報道の合間を縫うように、先月30日付沖縄タイムスは1面を衝撃的ニュースで飾った。東村高江の北部訓練場近くで起きた県警の検問を違法とした那覇地裁判決について、「県控訴せず」と大きく報じた。

 16日、警察が一般車両の通行を止めたことは「原告の自由を制約するもので、警察法などで正当化できず、違法だ」として、弁護士の訴えを認め、県に30万円の支払いを命じる判決を言い渡している。

 北部訓練場のヘリパッド移設以来、反基地活動家のメッカと言われるようになった高江では、活動家の違法な「私的検問」がまかり通っているが、「警察官による検問」すらも違法と県知事が認めたことになるのだ。

 判決によると、高江に向かっていた三宅俊司弁護士は2016年11月3日、高江で警察官に停車を求められた。根拠を繰り返し尋ねたが回答はなく、承諾なくビデオ撮影されるなどしたという。

 違法な抗議活動を繰り返す反基地活動家の罵声に耐えながら、職務を忠実に執行する警察官の悔し涙が目に浮かぶような恣意的判断である。

 事件の経緯はこうだ。

 辺野古と並んで反基地活動家のメッカとなった高江で警備中の警官が、“プロ市民”(活動家)とおぼしき人物を検問した。言うまでもなく、職務の執行である。ところが、検問を受けたのは反基地活動家の支援者である三宅弁護士だ。同弁護士が原告となり、過剰警備として県を提訴。那覇地裁の森健裁判長は県警の検問は違法との判決を下した。

 こんな理不尽な判決が許されるはずはない。

 筆者は、県が即時控訴するものと信じていた。ところが控訴権を有する翁長知事は1月29日、「控訴をしない」と判断した。県警側の控訴の要請を押し切っての「控訴断念」である。この理不尽なニュースを沖縄タイムスは「市民『当然』」、「県警『残念』」と大見出しで報じた。仲井眞弘多前知事がいみじくも言った「(特定勢力の)コマーシャルペーパー」の性格をよく表している。

 翁長知事は、控訴権について「地方自治法上、私(知事)に最終的な意思決定の権限がある」と確認した上で、控訴断念の理由を次のように説明している。「原告の言動や服装などからは、犯罪行為に及ぶ具体的な蓋然(がいぜん)性があったと認めることはできない」と。

 つまり翁長知事によれば、服装と言動に気を付けた人物が違法行為を行うとは思えないので、検問は違法というのだ。こんな性善説を適用したら、現場の警察官は悔し涙を流すだろう。いや、警官の職務に絶望する人が出るかもしれない。残念ながら、警察とは「人を疑う」のが職務の因果な商売のはずだ。バカバカしい話だが、翁長知事の判断によれば、泥棒は泥棒らしく頬かぶりに唐草模様の風呂敷を担いでいると、ということになる。

 県警側が「控訴してほしい」と、知事に伝えていた様子を、タイムスは次のように報じている。

 <ある県警幹部は「職務を当事者としては、控訴が妥当と判断した」と強調。「主張が通らず残念だ。被告が県知事である以上、県警が判断できないのは仕方がない」と語った。>(9日付沖縄タイムス)

 さらに産経報道によると、翁長知事が県警の要望を押し切ってまで「控訴断念」した理由を、こう報じている。

 <県警は控訴したいとの考えを伝えていたが、行政府のトップである翁長知事が「1審判決は重く受け止めるべきだ」と判断した。>(29日付産経ニュース)

◆翁長知事の職権乱用

 辺野古と高江が反基地活動家の違法な抗議活動のメッカといわれる理由は、暴力・傷害、器物損壊で逮捕・起訴され公判中の沖縄平和センター議長・山城博治被告や、抗議中に警察官をひいて現行犯逮捕された共産党の元県議、そして和田政宗参議員議員に対する暴力行為で起訴された活動家など、枚挙にいとまがないほどだ。

 沖縄2紙は被告県側の翁長知事の「控訴せず」を大きく報じたが、原告が控訴しなければ、高裁、最高裁判決を待たずして1審で判決が確定したことを意味する。

 これは結果的に地方行政の長たる翁長知事の恣意的判断が最高裁の役割を果たしたことになる。いくら県知事が控訴の決定権を有するとはいえ、警察業務は一種の専門職である。検問現場の状況を熟知した警察幹部が検証の上、県警本部長の諮問を受け判断すべき案件だ。つまり、警察業務に素人の県知事は、県警側の「控訴すべし」の要請に従うべきではなかったか。

 警察が専門職である根拠は、こうだ。

 警察は警察法や刑事訴訟法、警察官職務執行法で定められたところによる活動を行う。具体的には、個人の生命、身体および財産の保護と、犯罪の予防、鎮圧および捜査、被疑者の逮捕、交通の取り締まりやその他公共の安全と秩序の維持のための活動を行う公務員である。

 つまり沖縄県警は、沖縄県民の生命と財産を守るため治安維持を職務とする点では自衛官と同じである。暴力革命をもくろむテロリストや無政府主義者が最初に制圧を狙うのは治安維持を職務とする警察である。暴力革命を画策するテロリストは、警察を支配階級の暴力的統治機構であるとし、その粉砕を目指す。翁長知事は「辺野古移設」に反対することに固執する結果、国の安全保障で国(防衛省)と対決。今度は警察の公務執行を骨抜きにすることにより、県の治安維持を弱体化させた。

 翁長知事の「控訴断念」により、現場の警察官が士気を失ったらどうなるか。沖縄県警が人間のクズの集団に成り下がる恐れさえある。そうなると、沖縄の無法地域は高江・辺野古だけにとどまらず、沖縄県全体が暴力革命の目標になりかねない。現場の警察官の要望を踏みにじって強行した翁長知事の「控訴断念」は、明らかな職権乱用である。

 人気テレビドラマ「踊る大捜査線」の主人公、青島刑事の言葉を、翁長知事に進呈する。

 「事件は現場で起きている。会議室で起きているのではない」

(コラムニスト・江崎 孝)