参院選・島尻氏落選したが… 改憲派が過半数を獲得


《 沖 縄 時 評 》

逆風の中で保守健闘

 沖縄では革新陣営が圧倒的に優位で保守陣営が低迷している、と思っている人は多いだろう。

 確かに7月の参院選では自民党候補は惨敗した。ところが得票数・率をみると、自民党は着実に支持を拡大し、断トツの第1党だ。また改憲派4党の合計得票率は5割を超えている。

 参院選では地元2紙(沖縄タイムス、琉球新報)が反辺野古の一大キャンペーンを繰り広げ、朝日や毎日などの全国紙は「改憲3分の2超え阻止」の大合唱で野党候補を支援した。そんな逆風の中で、沖縄の保守陣営は県民の確固たる支持を得ている。こう言えば読者は驚かれるだろうか。

 一方、革新陣営では共産党が躍進したのに対して社民党は凋落(ちょうらく)。反改憲・野党4党の中では民進党の影が薄く、共産党がついに第1党に躍り出た。共産党の「独り勝ち」だった。

 これが全国に先駆けて反辺野古の「一点共闘」で野党共闘を進めてきた沖縄の実態だ。参院選の結果から何が見えてくるだろうか。

1人区で沖縄方式

参院選・島尻氏落選したが… 改憲派が過半数を獲得

街頭演説をする島尻安伊子・沖縄北方担当大臣(当時)=7月24日、沖縄県那覇市内

参院選・島尻氏落選したが… 改憲派が過半数を獲得

糸数慶子氏(右)らと気勢を上げる伊波洋一氏(中央)=7月22日、沖縄県宜野湾市

 今回の参院選では野党4党(民進、共産、社民、生活)が全国32ある1人区全てで統一候補を擁立し、11勝21敗で一定の成果を上げた。

 沖縄では元宜野湾市長で野党候補の伊波洋一氏が35万6000票を獲得し、自民現職で沖縄担当相の島尻安伊子氏の25万票に10万票の大差をつけて圧勝した。

 こうした野党共闘の原型とされたのが米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する「オール沖縄」方式だ。2014年11月の県知事選で翁長雄志氏(那覇市長、元自民党県連幹事長)が3選を目指す現職、仲井眞弘多氏を退けて当選。

 それに続く同年12月の総選挙で、共産党が反辺野古の「一点共闘」を提唱し、「オール沖縄」を旗印に統一候補を擁立、県都・那覇市を含む1区で共産党候補が初当選するなど四つの小選挙区全てで勝利した。

 この再現を目指したのが今参院選での1人区の統一候補だ。共産党は党公認候補を降ろし選挙協力を実現させ、香川では党公認候補を統一候補として一本化させた。落選したとはいえ、志位和夫委員長は「衆院選での共闘にも積極的な影響が出る」と評価している。

 沖縄の革新陣営(共産党、社民党)が伸長するターニングポイントとなったのは、民主党が政権を奪取した09年8月の総選挙だ。民主党は普天間飛行場の移転先について「最低でも県外」と唱えたため民主党政権誕生後に移転問題が迷走、反辺野古闘争を活気づけた。今参院選の結果、衆参両院の沖縄選挙区から選出された国会議員は全員が反辺野古派となった。

支持挽回する自民

 では、保守と革新、各党の勢力はどう推移してきたのだろうか、以下に見てみよう。まず自民党の得票数・率(以下、いずれも沖縄における比例選=概数)。

 自民党が全国的に圧勝した05年「郵政選挙」では、沖縄でも自民党は得票数21万8000票、得票率35%で圧勝した。ところが政権の座を失った09年総選挙では11万8000票、17・7%と半減してしまった。

 民主党政権下の10年参院選では島尻氏が革新派の分裂に助けられて当選したものの、自民党は9万3000票、17・6%とさらに落ち込んだ。09年、10年は第1党を民主党に奪われた。これが自民党の底だった。

 それ以降、票・率ともに着実に取り戻してきた。すなわち、▽12年総選挙12万4000票、21%▽13年参院選14万票、25・6%▽14年総選挙14万1000票、25・3%▽16年参院選16万票、27・8%―と推移した。

 いずれも自民党は最多の票を集めて第1党だった。今回、05年のピーク時に対して票で7割、率で8割まで取り戻した勘定だ。沖縄選挙区では島尻氏は惨敗したが、尖閣諸島を所管する石垣市など八重山・宮古の先島諸島では中国の脅威への危機感が高く、島尻氏は51・1%を獲得、伊波氏に競り勝った。

 また共同通信の出口調査では自民党は60代を除く全年代で最も高い支持率を獲得、20代は30・9%と最も高かった(ちなみに60代は共産党の21・1%=琉球新報7月12日付)。今年6月の県議選でも自民党は15万5000票、27・9%で、推薦の1人を加えると現有議席を一つ伸ばしており、着実に支持を挽回している。

 一方、連立を組む公明党は皮肉なことに政権を失った09年がピークで、自民党を上回る12万票、17・9%を得て民主党に次ぐ第2党となったが、その後は微減、今回は8万6000票、15%だった。

 とはいえ、与党(自民、公明)全体の得票率をみると、05年が43・8%だったのが、09年には35・5%に落ち込んだが、今回は42・8%と、ほぼピーク時の得票率に並んだ。

 改憲派も健闘している。今回、改憲4党(自民、公明、おおさか維新、日本のこころを大切にする党)の合計得票率は51・9%。沖縄2紙が反改憲キャンペーンを張り続けた中で、改憲派の支持が実に過半数を超えているのだ。

 維新やみんなの党が第3極ブームを起こした12年総選挙では改憲派は60%を獲得、沖縄でも「3分の2」に迫ったこともある。そこから減じたとはいえ、依然として改憲派が多数を占める。

凋落際立つ民・社

 一方、反改憲の野党4党のうち、凋落が際立っているのは民進党(民主党)だ。05年は16万票、26%だったが、政権を獲得した09年は25万票、38・5%に躍進。それが今回は7万6000票、13・3%に沈んだ。

 底だったのは13年で、3万6000票、6・6%。それに比べて今回は倍増したが、ピーク時の3分の1にとどまっている。沖縄では民進党の影は薄い。

 では、革新勢力すなわち共産党と社民党はどうだろうか。全国では今回、共産党は601万票、10・7%、社民党は153万票、2・7%で、共産党が圧倒的に優位に立っている。両党合計は13・4%。

 これに対して沖縄では従来、社民党が優勢で05年は9万票、15・7%を獲得、共産党の5万票、8・7%を2倍近くも上回っていた。とりわけ民主党が国民の信頼を失った10年参院選では社民党は12万票、22・7%へと大躍進。逆に共産党は3万6000票、6・5%に減り、3倍以上の大差をつけた。

 この構図は13年まで変わらず、同参院選では社民党は10万7000票、19・6%、共産党は5万1000票、9・3%で、社民党が2倍以上の差で優位だった。ところが、「オール沖縄」が誕生した14年から力関係が変化し始めた。14年総選挙では社民党は8万1000票、14・6%に落ち、共産党は7万9000票、14・3%と肉薄。

 今回、社民党は6万9000票、12・1%と、さらに減じたのに対して共産党は9万票、15・6%を獲得し、ついに逆転。野党4党の中で初めて第1党に躍り出た(しかも自民党に次いで第2党)。ちなみに生活の党は14年2万8000票、5・1%、今回1万8000票、3・1%。

 全体に占める革新勢力(共産党+社民党)の得票率をみると、10年の29・5%がピークで、第3極ブームの12年には21・7%に落ちたが、13年に29%に戻した。14年は28・9%、今回は27・7%と微減、3割の壁を超えられないでいる。だが、全国平均13・4%に対して沖縄の革新勢力はその2倍の勢力を誇っていることになる。

 反改憲派(野党4党)全体の得票率をみると、民主党政権が誕生した09年が57%でピークだった(当時の民主党を反改憲派とすることに疑問もあるが)。

 10年は52・1%と過半数を維持していたが、第3極ブームの12年には36・4%へと落ち込んだ。それ以降、13年37・8%、14年43%、今回44・2%へと盛り返してきた。それでも4割台にとどまる。

 参院選結果を伝える琉球新報7月11日付は社会面で「沖縄の怒り国政へ 改憲反対の声強く」の大見出しを躍らせたが、いくら「オール沖縄」を叫んでも反改憲派は県民の過半数の支持を得られないでいるのだ。

 それだけ沖縄の保守陣営が踏ん張っているという証しだろう。保守にはまだ伸び代がある。全国的な支援が望まれるゆえんだ。

 増 記代司