大衆迎合主義に傾く米二大政党綱領
党の伝統的政策から大きく逸脱
共和党、民主党の全国大会で実業家ドナルド・トランプ氏、前国務長官ヒラリー・クリントン氏がそれぞれの大統領候補に正式指名された。米大統領選は本選挙戦に突入したが、大会で採択された両党の政策綱領は党の伝統的政策から逸脱する異色の内容になっている。
(ワシントン・久保田秀明)
共和党、メキシコ国境に壁建設
民主党、左派の要求8割を飲む
共和党は、党主流派や保守派のトランプ氏への懸念がいまだ根強い。民主党は、予備選で43%の得票をした自称社会主義者バーニー・サンダース上院議員が抱える1300万人の支持者をクリントン陣営に組み込むことに腐心した。
共和党も民主党も分裂の火種を抱えていたわけだが、この状況は党政策綱領に反映された。共和党綱領は異端児トランプ氏の主張とそれを牽制する主流派の主張が折衷されている。民主党綱領は党内結束の代償として、サンダース氏の社会主義的主張を大幅に取り入れた。結果として、両党の綱領は伝統的政策から大きく逸脱する内容になっている。
ニューヨーク・タイムズ紙は、共和党の党綱領採択を受けた社説で、「最近の記憶に残る最も極端な綱領」と評した。同紙は、「トランプ氏の異端的見解を保守派の正論に調和させる努力をせず、すべてにおいて最も極端な見解を選択した」と批判。「トランプ氏の衝動的大言壮語に迎合した党綱領は、共和党が逆行的で極端な考え方の核心グループにより動かされていることを露呈した」としている。
トランプ氏の主張が反映された例は、米メキシコ国境の壁建設や「米国第一の貿易協定」の主張だ。共和党綱領は、「米国における身元不詳の何百万人もの存在は米国の安全と主権に重大なリスクとなる。南部国境沿いの壁の建設と全通関手続地の保護を支持する。国境の壁は南部国境全体に及ぶ」としている。
党綱領は、「イスラム・テロリズムに関係する地域」から米国への入国申請者には「特別な精査」を行うとしている。さらに綱領は、「入念に検査できない難民、とくに母国がテロの温床になっている国からの難民の入国は許されない」としている。2012年綱領は、「難民を歓迎する米国の歴史的伝統を支持する」としていたが、大変化だ。
共和党綱領はまた、「商業銀行が高リスクの投資を行うことを禁止する1933年グラス・スティーガル法の復活を支持する」と言う。グラス・スティーガル法は1999年に廃止されたが、サンダース氏ら民主党左派が熱心に支持している。同法復活はクリントン氏も過剰規制として支持していない。これもトランプ氏なしでは、絶対に共和党綱領には盛り込まれなかった内容だ。
予備選でトランプ氏に次ぐ得票をしたクルーズ氏は党大会でトランプ氏支持表明を拒否し物議を醸した。クルーズ氏を支持する共和党保守派は党綱領作成で影響力を行使し、党がトランプ氏に乗っ取られるのを阻止する内容を組み込んだ。
共和党綱領は、2015年の連邦最高裁の同性婚容認判決受け入れを拒否し、事業者が宗教的信条に反する同性愛者向けサービスを拒否する権利を認める宗教自由法を支持、一切の例外なしの中絶反対を明確にしている。トランプ氏のこれら社会問題での立場はここまで明快ではない。例えば、レイプ、近親相姦、母体の生命が危険になる場合の中絶は例外として容認している。
共和党綱領委員会の委員でクルーズ氏支持者のスコット・ジョンソン氏(ジョージア州)は、「党政策綱領は、保守派がトランプ氏に抱いている懸念を緩和する内容になっている」と言う。伝統的保守の主張が、トランプ氏を牽制(けんせい)するためかなり盛り込まれたのだ。 一方、民主党政策綱領は、民主党左派のサンダース氏の主張を大幅に取り入れ、「民主党史上最もリベラルな内容」(同氏)になっている。最低賃金引き上げ、社会保障の拡大、温室効果カス排出への課金額設定などは、サンダース陣営が入れたものだ。
サンダース氏の政策顧問ワーレン・ガネル氏によると、サンダース氏が要求した綱領修正案の80%が盛り込まれた。サンダース氏支持者のニナ・ターナー元オハイオ州議会議員は、民主党綱領はクリントン氏が大統領に就任すれば、どこまでサンダース氏が主張する政策を実行するかの「スコアカード」になるとし、実行状態を監視するとしている。サンダース氏は、自分の運動を「革命」と呼び、大統領選挙後も継続することを強調している。
トランプ氏もサンダース氏も一種の大衆主義者(ポピュリスト)だが、大衆に迎合した党綱領のツケはこれから回ってくることになりそうだ。