年金問題押す「プレス民主」
社会保障論議に前政権の矜持/「自由民主」は経済政策訴える
安倍晋三首相が1日、来年4月から消費税率を8%とする決断をした。消費税増税法に則ったものだが、民主党の野田佳彦前首相が「政治生命」を懸けて断行した「社会保障と税の一体改革」関連法制定の結果だ。
この中で民主党の機関紙「プレス民主」は社会保障制度改革、特に年金問題に力を入れた紙面を展開している。選挙に負けて自民党の天下になったが、もとは将来の社会保障制度改革のための増税という政権当時の矜持が見える。
同紙9月20日号1面で長妻昭党社会保障総合調査会長、2面「民主党への提言」で神野直彦東京大学名誉教授が社会保障制度改革について語り、10月4日号は1面と4面で「民主党への提言」として駒村康平慶応大学教授が「民主党年金案を段階的に実現すべき」のタイトルで語った。
長妻氏は「格差はもう限界に近い」のタイトルで「貧困が連鎖していくことで、新しい貧困層が固定化していくことが懸念されます」と述べ、「会社で働いているにもかかわらず数百万人もが厚生年金に加入できずに国民年金第1号被保険者になっている」などの実情を指摘した。
神野氏は「今、戦後の重化学工業を基盤にした福祉国家という経済構造が崩れつつあり、それに変わる時代への転換期が続いている」との見方を示し、格差の広がりに対し「セーフティネットが現金ではなくサービスの形で提供される」べきだと訴えている。
年金制度の論議の詳細は省くが、「民主党年金案を段階的に実現すべき」のタイトルで語る駒村氏は、所得比例年金に一元化、最低保障年金など民主党案に「すぐには実現できないが、方向は決して間違っていないと考えます」と理解を示した。
民主党が年金問題を前面に打ち出したことは、政権獲得前の原点に立ち返ったと言える。民主党による年金制度改革の争点化は2004年参院選において成功し、小泉純一郎政権を相手に改選第1党に躍進した。長期不況によるリストラで終身雇用制度が揺らぎ、非正規雇用が増えて格差が拡大し、将来の年金に不安が生じたためだ。
この問題は現在も変わらず残っているが、政権獲得後の民主党への期待が失望に帰したため、有権者は将来の年金よりも安倍首相のアベノミクスによる目の前の経済の挽回に関心を注いでいる。その後押しをする自民党機関紙「自由民主」(10・15)は、消費税率を8%とする首相記者会見を取り上げた。
これを同紙は「経済政策パッケージで対応/一過性でなく未来への投資」「5兆円規模で反動減対策/『増税下でも成長させる』」(1面見出し)と、増税よりも「経済政策パッケージ」を強調している。増税と経済成長を同時に行うという首相の決意が実現できるかは目下の焦点だ。だが、アベノミクスの効果が生まれ、有権者に余裕が生まれれば将来に関心が移ろう。民主党の論点の注目度もまずは景気次第だ。
解説室長 窪田 伸雄