事故が相次ぐJR北海道問題で極左系労組に踏み込まない新聞報道

◆週刊誌は指弾したが

 「いつの日も 真実に 向き合う記事がある」。15日から始まった新聞週間(21日まで)の代表標語だ。

 新聞のスローガンとしては申し分のない内容だが、不祥事や事故が相次ぐJR北海道をめぐる新聞報道では、いささか心もとない。週刊文春のコラム欄「新聞不信」は「なぜ『労組の闇』に触れないのか」(10月10日号=3日発売)と、なじっている。

 各紙は同社のずさんな企業体質や民営化に伴う採用抑制による現場の衰退などを指摘するが、それらは他のJR各社にも見られることだ。それなのになぜ、北の一社にとりわけ「ずさんな企業体質」が顕著なのか。

 コラム氏はずばり問題の本質を「労組」と断じ、そのことをあまり報じない新聞報道を批判する。

 文春同号には「JR北海道 社員の8割以上が『革マル系労組』所属」との見出しも躍っている。それによると、会社員約7000人のうち、管理職を除く84%がJR北海道労組(JR総連系)に加盟し、会社は組合との対立を恐れて乗務員のアルコール検査も長年、義務化しなかった。

 同労組は、10年前に結成された少数労組のJR北労組(JR連合系)を敵視し、職場はすさんでいるという。北海道労組の所属するJR総連は極左暴力集団「革マル派」との関係が指摘されており、「脱退すればどんな目に遭うか皆、知っていますから、会社も組合から糾弾されるのが怖いから見て見ぬふりをしている」(社員)のだそうだ。

 同じ3日発売の週刊新潮(10日号)も「筋金入りの最大労組」を取り上げ、多数の乗員乗客が負傷した特急脱線炎上事故(2011年5月)後に中島尚俊社長(当時)が自殺した背景として、北海道労組の「責め立て」による心労説を紹介している。これらは聞き捨てならぬ話だろう。

◆わずかに日経、朝日

 では、新聞は本当に「労組の闇」を報じていないのか。文春発売の3日以前では、日経9月25日付が「経営幹部が『組合が言うことを聞かない』と漏らす」とわずかに触れ、朝日26日付も取り上げてはいる。

 だが、朝日は「組合間の対立が影響している」との見方を紹介し、多数派組合と少数派組合の確執が社内で情報が伝わりにくい状態をもたらしているとして、「会社側がこれまでの会見でふれた『組織の問題』は、根深い可能性がある」とするだけで、肝心の「根深い」中身に踏み込まない。

 週刊誌が指摘したのは「組合間の対立」ではなく、「最大労組」の“横暴”である。それには朝日はまったく触れず、労組の「確執」に話をすり替え、その後も沈黙する。

さすがに文春報道などでまずいと思ったのか、7日発売の週刊「アエラ」(14日号)で、「ゆがんだ労使関係の実態」を取り上げた。朝日本紙で扱わないのは解せない。

 毎日は7日付から「鉄路の背景 JR北海道異常放置」の3回シリーズを組んだ。その中で、「大小四つの労働組合に『労労対立』があるとの指摘もある」としたが、ここでも朝日と同様に最大労組に踏み込まず、「労労対立」とした。記事にはこうも記す。

 「10月に入り、組合の一つが、他の組合に『共同行動』を行い、風通しの良い企業風土の確立に向け、協議を開始する』。この呼びかけが、これまでの閉塞感を際立たせる」

 呼びかけたのは言うまでもなく少数派の連合系、北労組だが、読者は何の話か分からなかっただろう。ようやく12日付夕刊に「最大労組 協調せず」と、共同行動の呼び掛けに北海道労組が拒否したと報じた。

◆労組名書かない読売

 毎日はシリーズ「中」(8日付)で、「生きぬ教訓 響かぬ理念」との見出しで、特急炎上事故と中島社長の自殺問題を取り上げたが、「労組の責め立て」は触れずじまいだ。

 産経は「トラブル背景 労組の闇深く」(7日付)との週刊誌情報をなぞる記事を載せたが、続報はない。読売8日付に「飲酒検査を『免除』」との記事があるが、「(飲酒検査の)義務化の遅れや例外規定について、同社の複数の社員は『労働組合に過度に配慮した結果では』と指摘する」とし、労組名は書かない。

 こうしてみると、JR北海道報道では「いつの日も真実に向き合う記事がある」にはほど遠いと言うほかない。

(増 記代司)