尖閣譲る「社会民主」、禍根呼ぶ日中共同開発論

 社民党の機関誌「月刊社会民主」8月号は、集団的自衛権を一部容認した7月1日の安倍内閣閣議決定に対して「安保政策の歴史的転換点」と題した特集で批判したが、その中の一つ岡田充(たかし)氏(共同通信客員論説委員)による「『安保のワナ』にはまってはならない―日中衝突にどう歯止めをかけるか―」は、中国との尖閣諸島の共同開発論を唱えた。

 具体的には日中台の自治体(石垣市・福建省・宜蘭県)による特区というが、現実味のない訴えであり、台湾にも対立する問題を持ち込んでいる。戦前からの固有の領土で、米国から「日本の施政権」を認められている優位を崩す危うい領土感覚である。

 岡田氏は、中国公船の領海侵犯について「『日本と中国が共に実効支配』しているというのが中国の現状認識」と述べ、「そこから、単独開発ではなく『共同開発』という目標が導き出される」と主張。領海侵犯、領空侵犯を繰り返す中国の意図は「『共に支配している』実績づくりにあり、武力で奪うことではない」という。

 ここまで領海・領空侵犯に寛容なのも驚きだが、「共に実効支配」を信じて武力で奪われないと断言するあたり、南沙諸島、西沙諸島の教訓をどう見ているのか。ベトナム、フィリピンは強大な中国に比べ国力は弱い。だからこそ、中国は南シナ海に「九段線」を引いて、領有権問題のあるベトナムやフィリピンから米軍が撤退すると南沙・西沙諸島を武力で支配した。

 もし我が国が、社民党前身の社会党が主張した「日米安保条約破棄」「憲法違反の自衛隊解体」「非武装」という政策をとっていたら、尖閣諸島も中国が支配したに違いない。その歯止めをかけたのが日米安保条約と自衛隊による抑止力だが、この抑止力を軍拡競争となる「安保のワナ」と批判している。が、中国の軍拡は問題視していない。

 岡田氏は、中国の興隆、米国の衰退という情勢認識から、無駄な抵抗をするなと言わんばかりの論調だ。記事の冒頭から「坂道を下る車に乗っている。しかもかなりのスピードで。坂の下にあるのは隣の大国中国。ブレーキをかけなければ衝突することは誰にも分かるはずだ。しかし、ドライバーは逆にアクセルを踏むばかり」と、集団的自衛権一部容認を決めた安倍政権を蔑んだ。

 旧式の艦艇を座礁させて中国に抵抗するフィリピン、中国公船から衝突され自国の船が沈没する被害を被ったとしても抵抗するベトナムなどの姿勢と比べると、中国の側に立ったとしか言いようのない論文なのだ。尖閣問題の発端も野田政権の「国有化」を責めるが、中国が冷戦後の1992年に領海法で尖閣諸島を領土に含めたことはお咎(とが)めなしだ。

 領土を守るために独立国は、いざとなれば戦う覚悟と備えを持つ。日本はそのために自衛隊を発足させた。防衛努力を等閑視した上の「共同開発」論は中国の横暴に「上策」を献上するもので、中国に海域領海化と防空識別圏正当化の根拠を与え「歯止め」どころか新たな禍根を生む「ワナ」だ。社民党の領土感覚が問われよう。

解説室長 窪田 伸雄