「集団的自衛権」強調せず、与党機関紙と政府新見解

自公玉虫色の「新3要件」

与党機関紙と政府新見解

集団的自衛権の行使容認へ憲法解釈した閣議決定の翌日、閑散とした国会周辺=2日、東京都千代田区・国会前

 自衛隊発足60年の1日に政府は「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する文書を閣議決定した。この政府新見解を自民党機関紙「自由民主」(7・15)は「切れ目のない安保法制の整備を」「自衛措置の新3要件を提示」と題して閣議決定のポイントを報じ、公明党機関紙「公明新聞」(7・2)は、「閣議決定国民守る安保法制へ」「自国防衛の新3要件」「従来の憲法解釈と整合性保つ」の見出しで報じた。

 通常国会では「集団的自衛権」を軸に与野党論戦が行われ、新聞・テレビでも賛否渦巻く報道合戦が繰り広げられた。しかし、自公与党の機関紙は、見出しや記事に「集団的自衛権」の語句を扱わなかった。

 閣議決定に至る与党協議で公明党は「集団的自衛権」に難色を示し、自民党側は文言を修正して妥協を探った。「公明新聞」では、この公明党の要請を受け入れて修正した文言を「厳格にして歯止めをかけた」実績として記した。「国民守る」「自国防衛」との見出しの取り方も、同党が当初から主張した「個別的自衛権の拡大解釈」の意味をにじませたようだ。

 半面、「自由民主」の主見出しは閣議決定の文書名を縮めただけで控えめである。自公合意の閣議決定文書は玉虫色の文言が入り組み、自民党や同盟国の米国向けには「集団的自衛権の限定的行使」として、もともと憲法9条擁護の政党としてスタートした公明党向けには「個別的自衛権の拡大解釈」として新3要件を説明し得るものになった。

 実際、「公明新聞」は「外国の防衛それ自体を目的とする、いわゆる集団的自衛権は、今後とも認めない」と書き、安倍晋三首相もイラク戦争のような戦争に参加することはないと再三明言している。政府が例示した集団的自衛権行使の8例も邦人を乗せた米艦の防護などに限られている。

 それでもマスコミでは政府新見解に批判的なメディアほど、「戦後安保の大転換」(毎日新聞)、「9条崩す解釈改憲/海外で武力行使容認」(朝日新聞)など過大に扱った。テレビなどでは国会や首相官邸が騒然としたように1日の反対デモを報じた。あたかも、1960年安保闘争など思わせる扱いだ。

 しかし、翌2日の国会議事堂は小学生らが見学に並ぶ国会閉幕後の閑静な風景に戻っていた。国会によればデモのあった1日にも児童・生徒らの見学は行われたといい、デモ隊が連日連夜包囲した60年安保とは隔世の感の平常ぶりだ(1日は衆議院で小学校1校、中学校2校、参議院で小学校5校、中学校4校、高校1校、2日は衆議院で中学校3校、参議院で小学校4校、中学校3校が参観)。

 今回の閣議決定は憲法9条問題の論議を醸したものの平和裏に運んだ決定と言える。一国独自防衛が困難かつ自衛隊の国際貢献が頻繁な時代、国際常識に適う自衛措置に最低限の努力をしようという調整であり、両与党機関紙の扱いがそれを示していよう。

 「自由民主」7月22日号1面では「自衛措置の新3要件で行使に強い縛り」の見出しで高村正彦副総裁に聞く」を掲載しているが、記事で集団自衛権行使容認については「一部容認」として、やはり慎重な紙面になっている。

解説室長 窪田 伸雄