性的少数者の人権尊重論議
同性婚の推奨は筋違い
いじめをなくすことが重要
性同一性障害者とは、「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下、他の性別)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者」を指称する(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第2条〈定義〉より)。このような性的少数者、LGBT(レズ、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)と言われる人は人口の3~5%といわれている。
文部科学省が平成27年4月30日、「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について」と題する通知を出したことなどを背景に、性的少数者の人権尊重が国民的関心事となっている。
性的少数者である子供は、思春期に肉体的な性別に違和感を持ったり、周囲からいじめのターゲットにされたりして悩みを抱え、孤立感から自傷行為を繰り返す子供もいる中、LGBTについて理解を深める取り組みが学校現場で始まりつつある。
文部科学省の平成25年度の調査によれば、肉体的な性別に違和感を訴える児童生徒が全国の小・中・高校に少なくとも606人在籍していたことが判明しており、LGBTの児童生徒はクラスに1~2人いるとされている。
他方、「結婚に相当する関係」を認め、同性カップルにパートナーシップ証明書を発行する東京都渋谷区の条例が成立するなど、社会でLGBTに対する関心が広がりつつある。
文部科学省通知では、一人一人の状況に応じた取り組みを進める必要があるとし、①自任する性別の制服や体操着の着用を認める②多目的トイレの使用を認める――など、具体的な配慮事例を紹介し、性同一性障害以外の性的マイノリティーとされる児童生徒について、悩みや不安を受け止めなければならないとし、教職員が心ない言動をしないよう求めている。
自民党は去る1月14日、性的少数者に関する勉強会を政策調査会に設置する方針を固め、超党派による「LGBTに関する課題を考える議員連盟」も近く立法検討チームを立ち上げる方針で、性的少数者をめぐる議論が本格化しそうであるが、政調幹部は「法制化を前提とせず、まずは現状を把握して勉強する」などといった戸惑いがみられる。
民主党は差別解消推進法案の骨子案をまとめ、今国会提出をめざしているが、自民党内では伝統的な家族観を重んじる議員が多く、同性愛などに対する理解は広がっていない。
他方、LGBT法連合会は平成27年5月19日、政府関係省庁、国会議員等に向けて、行政機関並びに事業者を対象とした性的指向及び性自認等による差別等の困難の解消及び支援を求める法律の必要性を発表するなど、LGBTと呼ばれる人への差別をなくそうとの議論が行われるようになっている。
これらの人々は、これまでも社会において困難な状況におかれてきた社会的マイノリティーであるだけでなく、性に絡む問題だけに、これらの人々の境遇は一種のタブーとされ、議論が避けられてきた。
実際にLGBTの人々にどのような対応を講じたらいいのか。これまでの社会制度との整合性については議論があるだろう。国に応じて社会状況は異なり、外国の議論や制度をそのまま日本に持ってくるわけにはいかない。
特に学校での教育を通じて小さい時から子供たちにきちんとした理解を深めること、そしてLGBTを理由にしたいじめやそれを原因とした不登校をなくすことが重要である。
他方、同性婚の問題は欧米各国で激しい議論が行われており、一部の国では同性婚が認められるようになっているが、日本で意見が収斂するのはまだ先であろう。
渋谷区の、渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例は、①LGBTなど性的少数者に対する理解に取り組む②同性パートナーシップを結婚に相当する関係と認め、証明を行う――などを行政課題としている。
しかし、憲法24条1項は、婚姻は「両性」の合意に基づいて成立し、「夫婦」が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により維持されなければならないと定め、更に同条2項は、財産権、相続、住居の選定等の事項については「両性の」本質的平等に立脚して制定されなければならないと定められているとおり、憲法及び民法その他の諸法律上は、未だに同性婚はもとより同性カップルに対する法的保護を付与する制度は一切存在しない。
また、我が国の道徳規範にも同性婚を容認する認識はなく小、中、高、諸学校における道徳教育においても未だ同性婚ないし同性カップルを推奨する学習指導は許容されていない。
欧米諸国における同性婚認容の制度については未だ定着しているとは言えず、フランスにおける同性婚反対の大衆運動は未だ盛んに展開されている現状であり、アメリカにおいても民主党政権は是認しているが、共和党は強く反対している状況であり、東南アジアにおいては中国、台湾はもとよりイスラム教を国教としている多数の国では同性婚ないし同性性行為を是認していない。
(あきやま・しょうはち)






