家庭より個人重視の風潮 古賀氏

対談・結婚には神聖な価値がある
渋谷“同性カップル条例”を考える(下)

麗澤大学教授 八木秀次氏/東京都議会議員 古賀俊昭氏

宗教的規範力落ちる米国 八木

300-3

東京都議会議員 古賀俊昭氏

 古賀 八木教授にお聞きしたい。聖書では同性愛を認めていない、男色に溺れる町ソドムとゴモラは神の怒りに触れて硫黄で焼き払われた話が記されている。普通クリスチャンであれば、聖書の教えに忠実でなければならないのに、なぜ欧米などキリスト教文化圏の国でも同性婚を認めることになっているのか。聖書道徳は崩壊したのか。

 八木 パトリック・J・ブキャナン氏(米国の保守派政治評論家)の『超大国の自殺』(2011年)が伝えるのは、キリスト教国米国の死、カトリックの危機、ダイバーシティ(多様性)カルトなど。つまり、キリスト教の力がどんどん落ちていっている。宗教的な規範力が落ちているということだ。

 オバマ大統領はもともと共産主義思想にかぶれていた人だが、米国にはそういう人が一定数存在する。そういう中で、フェミニズムやマルクス主義の影響を受けた人たちが結婚、出産、育児などをばかばかしく思うようになってくる。

 それが少子化に結びついて、人口がどんどん減っていく。ブキャナン氏はそれを「自殺」と表現し、警鐘を鳴らしているのだが、その通りに米国は進んでいる。日本は数年遅れでその米国を追いかけているのだ。

 古賀 日本でも、少子化対策が叫ばれながら、結婚や家庭の価値を否定するかのごとき配偶者控除廃止が検討されるなど専業主婦いじめはすでにあるし、「女性が輝く社会」などと言って、女性を家庭から追い出し外で働かせようとしだしている。それに、今、独身の人に「結婚した方がいいよ」と言えば、「セクハラだ」と反発されるから言えない。昔は会話の中で、当たり前のやり取りとしてあったのだが、あくまで「家族」より「個人」の風潮が支配的だ。

 ――同性婚推進派は、同性婚と少子化を結びつけるのは間違いだという。同性愛は生まれつきのものだから、制度化しても同性愛者の数は増えない。だから、少子化とは関係ないと主張するが、そうではない。

 米国ではすでに、同性婚を合法化した州は、婚姻率が下がっていることがデータとして出ている。欧米の場合、事実婚も多いが、日本では婚外子が少ない。この事実から言えることは、日本で同性婚が制度化されれば、婚姻制度が形骸化し、婚姻率が下がって少子化に直結する恐れがあるということだ。

300-2

麗澤大学教授 八木秀次氏

 八木 子供が生まれないということは、日本人がどんどん減っていくということだが、他方、人口が爆発的に増えている国もある。要するに、超大国、先進国が滅んでいく。

 次期米大統領選挙の争点の一つは同性婚の是非に必ずなる。バイブルベルト(キリスト教信仰の熱心な地域、中西部から南東部にかけての州)の人たちは黙っていないだろう。彼らが大統領選挙の主導権を握っている。米連邦最高裁判決も5対4という僅差だったが、同性婚を支持したのはいずれも民主党政権で選ばれた(リベラルな)裁判官だった。

 日本でも同じ問題に直面しているのだから、国民にはもう少し関心を持ってもらいたい。同性婚問題に関心を持つことが何よりの少子化対策だ。このまま米国に追随していけば少子化はすさまじい勢いで進むはずだ。今のような次元ではない。

 古賀 まさに国家の自殺だ。

 ――少子化が深刻となる現在、なすべきことは結婚の意義と価値を明確に、若い世代に伝えることだろう。

 八木 女性のほとんどが年齢とともに卵子が老化していくことを知らない。だから、結婚はもっと先でいいと思っている。これまでは家庭あるいは社会の中で、問わず語りに結婚とは何なのかという価値が伝承されてきたが、今はそれがなされなくなった。

 そこで改めて教えていく必要がある。中学生くらいから結婚とはどういうものか、少子化対策の一環として教えることができるだろう。そういう中で、「結婚とは男女のもの」と、逆に押し返すこともできるはずだ。

 古賀 従来、結婚は家と家の結びつきだったが、戦後は憲法にある「両性の合意」の下、だんだんそういう考えが薄れてきて、当人の意志や幸せばかりが強調されるようになった。その一方で、社会を構成する基本的な集団の価値がまったく伝えられなくなっている。

 また、自分の魂を休めたり、何かに挑む時の自分のベースになったりする場所が家庭だ。元来日本人は誰に教えられずとも家庭、家族を大事にするということを自然に身に付けてきたし、そこに幸せを見いだし、生きがいが生まれていた。そういう当たり前のことが本来尊いのだということをもう一度再認識すべきだろう。

少子化対策で結婚の価値教えよ 八木

都でも同性婚推進の動き始まる 古賀

 ――子供を生み育てる場が家庭であり、その家庭が社会の継続的な発展の基盤になっていることを教えることが軽視されてきた。

 古賀 男女共同参画という名の下に、男らしさ女らしさを否定したジェンダーフリーが蔓延(まんえん)した時は、専業主婦は肩身の狭い思いをした。鯉(こい)のぼりや雛(ひな)祭りまで否定された。そうした内容が一時、教科書にまで掲載された。今は、ジェンダーフリーは言われなくなったが、その思想の積み重ねがあるのだろう。

 ――同性婚問題の背景にはジェンダーフリーがある。

 八木 それは間違いない。渋谷区の条例自体が男女共同参画条例を修正した形で作ったものだ。ジェンダーフリー自体が生物学的にも男女には性差がないという考え方だ。そうであれば、別に結婚は男女の組み合わせでなくてもいいという論理になる。

 ジェンダーフリーが盛んだったころ、家庭科の教科書が結婚するかしないかは個人の自由だとか、産むも産まないも自由だとか、ペットを家族と思う人もいれば、おじいちゃん、おばあちゃんを家族と思わない人もいるだとか、家庭科と称しながら、家庭を破壊するようなことを教えていた。

 本来、家庭科の名に値するように家庭を持つ意義を幼いころから教えていくべきだろう。それも少子化対策の一環としてやるべきことだ。

800

渋谷区パートナーシップ条例の成立前、反対派と賛成派が集会を開き混乱する渋谷駅ハチ公前広場(3月10日)

 ――世田谷区が11月をめどに、同性カップルを「パートナー」と認める公的書類を発行すると発表した。渋谷区の条例の影響はこれから確実に他の自治体へと広がるだろうし、都全体の問題になるはずだ。

 古賀 都の人権政策の中に、渋谷区の条例可決を受けて、同じような内容を入れようとする動きがあった。しかし、私たちは「両性の合意」が謳(うた)う憲法に従って人権問題に取り組むということで、渋谷区の条例を踏まえたような表現は盛り込まなかった。が、すでにそういう動きは始まっている。

 私は東京都の「男女平等共同参画審議会」の委員を長く務めている。平成23年に、「東京都配偶者暴力対策基本計画」の24年度から28年度までの知事の諮問を受けて答申を出すための審議会を開いたが、その時に実は同性婚を視野に入れた動きがあった。

「東京都配偶者暴力対策基本計画」の「配偶者」のあとに「等」を入れようとした。この基本計画は事実婚や、離婚後も同居している人にも救済の対応をしていて、ほとんど問題はないはずだが、「等」を入れるというのは、あえて男女以外の関係も含ませようとしたのだろう。

 私たちは審議会の中で、あくまで「男女間」ということで、名称変更すべきでないと反対し、従来通りになった。来年から次の計画の審議が始まるので、渋谷区の条例可決によって同性婚推進派が勢いを得て、同じような提案をしてくる可能性がある。東京都ではすでにそういう戦いが始まっている。

 八木 国会で「女性活躍推進法案」を審議している時に、民主党の議員が質問をして、同法案の中に「家族を構成する男女」という言葉があるが、これはどういう意味なのか、とあえて聞いた。

 普通は夫婦であり、男と女の組み合わせを想定して文言は書いてある。しかし、その議員は「男男や女女の組み合わせも含むのか」と質問した。それに対して、政府があいまいな答弁をした。国のレベルでそこは認めてないわけで、そこを答弁で認めてしまうと、これがアリの一穴になってどんどん広がっていく。東京都と同じ動きが国政レベルでも始まっている。

 ――そこで利用されるのが、2020年の東京五輪・パラリンピック。国際オリンピック委員会(IOC)は性的指向による差別禁止を掲げている。「東京2020大会開催基本計画」で、三つある基本コンセプトの一つである「多様性と調和」に人種、宗教などとともに性的指向も入り、「これらの違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合う」としている。

 古賀 同性婚推進派にとって、東京五輪は絶好の口実になる。これから渋谷区の条例に勢いを得て、都でも同じような条例を制定してもらいたいと陳情や請願が出てくるだろう。そうなれば議論せざるを得なくなる。議論すれば、都民の関心も集まってくるし、話題になって「何かしないといけない」となり、推進派の土俵に上がっていく流れができる。

 八木 その動きは、ダイバーシティの名の下に出てくる。多様性を認めろというわけだが、それに対抗するには、冒頭話した「合理的差別」という概念が有効だと思う。

 最後に結論を言えば、これは価値の問題だ。「結婚とは何か」という価値の問題。同性婚推進派が目指しているところは、結婚は必ずしも男女間だけのものではなく、同性愛に基づくものもあり、これらを同じ価値として扱わなければならないというもの。

 しかし、再度強調するが、男女の間柄でしか子供は生まれない。にもかかわらず、パートナーシップ条例が広がれば、子供が生まれない同性愛に基づく間柄と子供が生まれる男女の婚姻を価値として平等だ、と学校でもどこでも教え込まれていくことになる。

 そうすると男女の結婚の持つ価値が相対化され、あるいは否定される結果、男女で結婚しようという人は当然減っていく。そうなれば、少子化はものすごい勢いで進み、少子化どころか、極論すれば、やがて先進国が消滅するだろう。

 古賀 人類滅びるな。

 ――どうもありがとうございました。