「朝日」で憲法に触れず法律つくれば「同性婚」できるとAKBに説く学者
◆若者層をターゲット
今年夏の参院選から選挙権年齢が「18歳以上」になることから、憲法や政治についての若者向け入門書の出版が相次いでいる。中には、アイドルグループ「AKB48」のメンバーと政治家や専門家を対談させて発売した出版社もある。
新たに選挙権を得る若者層をターゲットに急ごしらえで本を出すのは不況にあえぐ出版業界ならではのことかと思ったが、部数減が続く朝日新聞も昨年末、出版業界からヒントを得たような企画をスタートさせた。「私たちも投票します」と銘打って、憲法学者の木村草太がAKBメンバー3人に政治の仕組みを講義した第1部(全4回)が今月12日で終わった。
いわゆる「従軍慰安婦」をめぐる虚報や原発事故の「吉田調書」に関する誤報問題などで多くの読者を失ったことで、新たに選挙権を得て政治に関心を持ち始めた若者を読者として取り込むことで部数減に歯止めをかけようとの魂胆があるのかもしれない。たとえそうであったとしても、結果として、政治を見る若者の目が鋭くなるならそれでいいだろう。
◆憲法98条に言及せず
だが、いくらアイドル相手の講義とはいえ、この期に及んで「また偏向か」と思わせたのが第2回の「立法の仕組み」だった。法律の制定について学ぶのに、不思議にも「最高法規」の憲法との整合性について言及しなかったのである。
対談はAKB48のヒット曲『禁じられた2人』に関連して、朝日が最近しきりと話題にする同性婚がテーマになった。木村が日本ではまだ同性婚は認められていないが、それが認められるように制度を変えるにはどうしたらいいかと質問すると、AKBの茂木忍が「同性でも結婚できる法律をつくる」と答えた。
それに対して、木村は「そうです。立法府が同性婚を認める法律をつくれば……問題は一つ解決しますね」と述べ、あとは「世間体」の問題が残ると指摘した。しかし、憲法に反する法律は「その効力を有しない」と定める憲法98条には触れずに、話を進めたのはどうしたことか。これでは立法の仕組みについての講義としては十分とは言えない。触れれば、同性婚の合憲性の議論に発展するので、それを避けたのだろう。
さらに問題なのは「同性婚のいま」とした欄外の解説。「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」と明記している憲法24条は「同性婚を禁止する趣旨ではないとの解釈が一般的だ」として、暗に“同性婚合憲説”を唱えたが、本当にそうだろうか。
◆“合憲説”支持は少数
憲法24条第1項には「両性の合意」のほかに、「夫婦が同等の権利を有する」、また第2項には「配偶者の選択」との文言がある。両性だけでなく、夫婦、配偶者という言葉がある以上、憲法は、婚姻を男女間に限定していると解釈するか、同性婚は想定していないが、結果的に同性婚を認めていないとするのが「一般的」である。だから、民法も「夫」「妻」「夫婦」という言葉を使っている。
朝日新聞出版の週刊誌「アエラ」2月8日号は「新・家族の常識」を特集した。その中に次のような記述がある。
昨年2月、安倍晋三首相が参院本会議で、「現行憲法の下では、同性カップルの婚姻の成立を認めることは想定されていない」と答弁したことを紹介した上で、「しかし、学者の見解は分かれ、憲法24条は同性婚を禁止していない、との見方も少なくない」とした。同性婚を後押しする企画だが、それでも合憲説は「一般的」とは言わずに「少なくない」にとどめている。
憲法については、ジャーナリストの池上彰も『超訳 日本国憲法』(新潮新書)を書いているが、その中で「結果的に同性婚を認めないものになっています」と明言している。憲法の「両性の合意」という文言を「当人の合意」と解釈して合憲説を唱える学者はいるが、それは少数派。それでも、同性婚を実現させようと言うのであれば、“解釈改憲”か、憲法改正のいずれかを主張するしかないが、木村の講義が中途半端に終わったことは、同性婚推進派ながらそこに触れられぬ朝日のジレンマを露呈させている。(敬称略)
(森田清策)





