内外需の弱さにもかかわらず来春の消費再増税の是非に触れぬ各紙

◆構造改革求める日経

 15年10~12月期の国内総生産(GDP)は、実質で前期比0・4%減と2期ぶりのマイナス成長だった。個人消費や輸出が振るわず、日本経済は依然足踏み状態である。

 各紙の論評はどうか。社説の見出しは記すと、16日付で朝日「基本に沿った政策を」、読売「足踏み脱却へ消費拡大がカギ」、産経「『脱却』へ賃上げ欠かせぬ」、日経「経済の基礎体力強める改革を再起動せよ」、17日付で毎日「奇策より地道に改革を」、本紙「来春の消費再増税は延期を」――である。

 日経は、いつもの構造改革推進論である。同紙は安倍晋三政権ができた12年10~12月期以降の13四半期のうち、マイナス成長が6四半期もあるとして、「日本経済がこんなに頻繁にマイナス成長に陥ってしまうのは、経済の実力を示す潜在成長率が0%台半ば以下に落ち込んでいるからだ」と構造改革の推進を訴える。

 同紙は、最近の安倍政権が取り組む「一億総活躍」「成長と分配の好循環」には少し不満の様子。人口減少下で女性や高齢者が活躍できるようにするのは当然だが、「分配と比べ成長戦略の論議がなおざりになっていないか」というわけ(毎日の「奇策…」は、その日経が不満に思う「分配」を説くもので、これで、毎日が重要とする「息の長い成長につなげること」が実現できるのかどうか)。

 ただ、日経の指摘の通りとしても、同紙も認める「設備投資を除くと内需はほぼ総崩れ」で、また成長を押し上げた外需も「輸入の減少が主因」で「日本経済のけん引役は不在」の中、中長期的な構造改革の推進を説くだけでいいのか。何とも心許(もと)ない。

◆政権に不満示す産経

 そうした点から、成長戦略(=構造改革)の着実な推進とともに、「家計のデフレマインドを払拭するには、今春闘での賃上げがカギを握る」と強調したのが読売。「基本給のベースアップを中心に賃上げの裾野を広げ、経済の好循環を再加速することが重要だ」というわけである。

 もっとも、そう言う読売も「気がかりなのは、急激な円高・株安など市場の混乱の影響」で、円高が進めば輸出関連企業などの業績を一段と押し下げ、「業績の伸びの鈍化は、賃上げ機運に水を差すうえ、設備投資の先送りにつながりかねない」と心配する。

 それで結局は、今月下旬の主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、「政府・日銀は、国際金融市場の安定に向けて、政策面での緊密な協調体制を確立せねばならない」ということで、足踏み脱却への決定打が見当たらない感じである。

 産経も読売とほぼ同じ趣旨だが、同紙は「企業収益や雇用の改善が経済の好循環につながらず、景気の停滞感を払拭できていない」と厳しい認識を示す。年明け以降の世界的な市場の混乱もあり、「失われた20年」から抜け出す好機も逸しかねないとして、「政府は厳しく認識すべきだ。民間も踏ん張りどころである」と。特に政府に対しては、「いまだ民需が盛り上がらないのは、政権が目指す成長の実現に確信を持てないからでもある」と手厳しい。

 確かに産経の指摘する通りなのだが、民需を盛り上がらなくした、より正確に言うなら、盛り上がりかけていたのに途中で潰(つぶ)してしまったのは、デフレ脱却の途上にもかかわらず、同紙も実施を強く支持した消費税増税である。自動車販売などでは今尚(なお)その悪影響が尾を引いているのである。

 今回示された景気の現状から、来春の消費再増税について延期を唱えたのが本紙。海外経済環境の悪さもあり、再増税を実施できる環境には程遠いというわけである。経済の好転が容易でないなか、先の4紙には再増税実施の是非について言及がないが、どう考えているのか。

◆冷静だった朝日社説

 今回の朝日社説は、とても冷静である。今後の状況は注視すべき局面だが、金融の目詰まりから消費や投資が一気に落ち込んだ08年のリーマン・ショック時とは様相が異なり、日本企業の収益は過去最高水準で、雇用は人手不足もあって堅調であるとして、ここは浮足立たず、見出しの「基本に沿った政策を」というわけである。具体的には金融・資本市場の動揺を抑える国際協調と成立済みの今年度補正予算の執行を急ぐこと、再増税は社会保障費を賄うためと。

 とはいえ、再増税で景気がさらに落ち込み、全体の税収が減少する恐れがないのか、懸念が残る。

(床井明男)