同性カップル証明書、結婚制度の意義問い直せ
東京都渋谷区はきょうから、同性カップルを「結婚に相当する関係」と認めるパートナーシップ証明書を全国で初めて発行する。男女の結婚の意義を薄れさせてしまいかねないなど、マイナスの影響を憂慮せざるを得ない制度だが、逆に証明書の発行を契機に婚姻制度の本質を問い直し、同様の取り組みが他の自治体に広がるのを防ぎたい。
渋谷区がきょうから発行
証明書は、互いを後見人とする公正証明書などを提出した20歳以上の区民に発行される。法的な拘束力はないが、区はこの証明書を持った同性カップルがアパートへの入居や病院での面会などで不利益を被らないように配慮を求めている。
同性愛者をはじめとした「性的少数者」と言われる人々の人権尊重や差別解消に、行政が取り組むことは理解できる。しかし、パートナーシップ証明書という制度を設けなければ解決できないのだろうか。不動産会社や病院はすでに差別的な扱いをしていないと聞く。渋谷区によると4日夕現在、発行を申請したのは1組だけ。深刻な人権侵害に直面している性的少数者がどれだけいるのか、疑問である。
この証明書発行で特に懸念されるのは、同性間のパートナーシップを法律上の婚姻とは異なるとしながらも「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える」社会生活関係と定義していることだ。
婚姻というのは単なる男女の性関係ではない。「男女の共同体として、その間に生まれた子供の保護・育成、分業的共同生活の維持などの機能をもち、家族の中核を形成する」(佐藤隆夫著『現代家族法Ⅰ』)との解説があるように、多くの民法学者は、婚姻の本質が出産を前提にした子供の保護・育成にあると指摘している。にもかかわらず、子供の出産が考えられない同性カップルの関係を「結婚に相当する」と認定することは実質、結婚の定義の変更につながる。
渋谷区の制度の狙いは結婚についての住民の意識を変えようというものだ。婚姻を男女に限定する憲法や民法の趣旨に反するのは明確で、一自治体が行うべき取り組みとしては行き過ぎである。
同性カップルへの行政の支援としては、世田谷区もきょうから「パートナーシップ宣言」を提出してもらう形式でのパートナー認定をスタートさせる。こうした取り組みが広がれば、海外で増えている「同性婚」の制度化がいずれわが国でも政治課題として浮上するに違いない。
同性婚の制度化によって、性秩序の乱れや少子化に拍車が掛かるなど、社会の根幹が揺らぐのは必至だ。それを防ぐには近年、個人の「自己決定権」ばかりが強調されてきた結婚観を問い直し、男女の愛情の先にある子供の幸せという視点から、本来の目的を再確認する機運を高める運動が必要である。
少数者の人権保護に逆行
少数者の人権を守るには、安定した社会が欠かせない。こうした社会は男女の結婚を核とした家族の強化によって実現されるのである。性道徳を混乱させ、少子化に拍車を掛けるような取り組みは、それに逆行することではないか。
(11月5日付社説)