日本も南シナ海での米作戦に協力せよ
中国が南シナ海で覇権確保の動きを積極化させていることに対し、米国が「航行の自由作戦」を展開している。
日本政府はこの作戦を支持しているが、与党の自民党内から中国の人工島建設は「日本には関係ない」として非難する向きが出ている。だが、関係がないどころか、将来、日本経済に致命的打撃を与えかねない事態である。
中国が支配権確保を画策
安倍晋三首相は、米海軍の作戦について「国際法にのっとった行動」と支持を表明している。しかし、日本経済にとって死活的な事態に発展することへの言及はない。これでは国民に、対米追随外交との誤解を与えよう。主要メディアも、武力衝突に至らないよう注意し、「話し合いで解決」するよう求めているだけだ。
中国は最高実力者、故鄧小平平氏の存命当時に樹立した南シナ海、東シナ海内海化計画に基づいて着々と実績を積み上げてきている。
領海は、他国民間船舶はむろん艦艇も無害通航権があるが、内海はその属する国の許可がなければ航行できない。もっとも旧ソ連同様、中国も領海内の無害通航に否定的である。
国際法では、領土取得について「時効による取得」という方法がある。この特徴は「開始が不法な領土支配であっても、一定期間、平和裏に実効支配する」ことで領有権が確定するという点にある。中国はこの時効取得方法を悪用して、南シナ海の支配権を確保しようと画策しているのだ。
わが国の国際法概説書では、概して国連憲章違反を理由に第2次世界大戦後は「時効による取得」を否認している。だが、欧米の主要概説書では領土取得方法の一つとして説明している。取得の要件である「一定期間」について定説はないが、英国・ベネズエラ間の条約で50年と規定しており、これが参考にされることが多い。
南シナ海での軍事基地の建設が進展し、かつ平和裏の実効支配が継続すれば、やがてこれらの海域は他国船舶が自由に航行できなくなる。日本人と違って中国人は、目先のことだけでなく、遠い将来をも見越して行動する特徴があるのを忘れてはならない。
米国にとって東・南シナ海の自由航行は“望ましい”だけである。中近東へは大西洋経由で大回りせず行けるからだ。これに反して日本の場合は、インドネシアの東側を通ってロンボク海峡経由でインド洋に入るしかない。
石油、物資輸送のコストアップは、激しい国際競争の中で、銭、厘の単位でコスト削減に苦労している製造業にとって致命的になりかねない事態だ。米海軍の作戦行動は、この時効の進展を停止させる効果がある。
航行の自由を守り抜け
菅義偉官房長官は「今、米海軍が行っている作戦に自衛隊が参加する予定はない」と強調している。
だが、航行の自由が失われることでわが国が大きな被害を受けることを考えれば、理解を示すだけでなく、何らかの協力をすべきである。
(11月6日付社説)