金正恩氏への小提言、隗より始めて普通の国へ
金正恩朝鮮労働党委員長殿。米朝首脳会談で「安全保証」や「米韓演習中止」を獲得、“後ろ盾”中国との絆も結び直し、満足しておられるでしょう。但(ただ)し非核化は今後の米朝交渉次第。トランプ大統領は日本に非核化費用5兆円を出させると言ったそうです(25日付本紙)が、日本は拉致解決まで1円も出さない強い決意で交渉しようとしています。
北朝鮮がまた欺かないかとの不信感は強い。各問題が解決され、制裁が協力に替わり、北朝鮮が経済再建路線へ進み、地域に平和と安定が訪れるため、絶対不可欠なのは何か。それは北が徐々にでも、国際規範に従う普通の国になることでしょう。隗より始めよで、小さな提言をさせてください。
一つ目は、ルールとマナーを守る習慣を身に付け、特別扱いされて当然との認識をすてることです。
その点、平昌五輪から米朝会談までの行動パターンも決して良くない。五輪参加も登録規則を無視し、政治的に利用し、他国より有利な条件の南北合同チームも作った。5月の世界卓球選手権の女子チーム統合は、ずたずたのルール破壊でした。
無論、文在寅韓国政権の特別協力やIOC(国際五輪委)や国際卓球連盟の特別扱いがあったからで、特別扱いする方も問題です。でも金委員長は、それも「核保有」の力と瀬戸際政策の成果で当然と思っておられませんか。とすれば、核カードを早く完全に手放す気になれないでしょう。
南北閣僚級会談を一時一方的に取り消し、米朝準備協議もすっぽかし、国際マナー無視の約束破りも繰り返されました。
五輪代表団派遣費約3億円は韓国、米朝会談の滞在費約22億円はシンガポールが負担したようですが、それも当然、シンガポール往復中国特別便の“後ろ盾”サービスも当然ですか。
制裁で財政難なら、220人以上の五輪美女応援団を減員するとか、金委員長のシンガポールのホテルの部屋を、報道されたような1泊1万㌦でなく半額のものにするとか、緊縮姿勢を示してもよかったのではないですか。「国民のため節約」と言えば内外に好感を広げたかもしれません。
二つ目は悪罵戦術・文化からの脱却です。
首脳会談前、外務次官がペンス米副大統領を「愚かな間抜け野郎」と呼び、トランプ氏を怒らせましたが、昨年末まで北朝鮮メディアは、トランプ氏や文大統領も「精神異常」「極悪」などと罵り続けました。今は手の平を返しましたが、日本首相はなお「安倍一味」。五輪開会式出席の際は「本当に憎らしい招かれざる客」でした。
近年最悪は、2014年、朝鮮中央通信のオバマ米大統領(当時)への人種差別丸出し悪罵でしょう。「見れば見るほどアフリカ原始林のサル」「人間の初歩的な容貌も備えていない」。当時の朴槿恵・韓国大統領は「ずる賢い売春婦」。敵は呼び捨てでヘイト連発。世界で北朝鮮だけです。
例えば1994年は、金日成主席の死直前、核問題で米朝危機が爆発しかけた年ですが、日米指導者は肩書付きでした。
金正日時代、米国から「悪の枢軸国」に指定された02年には口汚さが相当進行し、貴政権でそれがさらに激化したのです。
相手を威圧し自らを高位に置く狙いでしょう。国営放送アナウンサーの自己陶酔型名調子も、体制の威厳を示すためですか。でも放送を喜劇にするだけです。
普通の国へ向かうべきです。国際規範無視、特別扱いや罵詈雑言や威圧からは、誠実な合意履行も信頼も平和も経済協力も正常な国家関係も生まれない。まず隗の中の隗で、呼び捨てだけでもやめませんか。
(元嘉悦大学教授)






