展望開けぬ当面の日本経済

尾関 通允経済ジャーナリスト 尾関 通允

国際協調にヒビ割れも
利子収入減で個人消費停滞

 日本経済の今後の展開に強く関わる内外の環境条件は、すこぶる複雑かつ不透明で見通し難になったまま推移している。いつだったか現首相が「アベノミクスは着々と成果を上げ始めている」と語ったことがあるが、直近の経済諸指標から判断すれば「成果を上げている」などとは、とても言えない。

 現政府のこれまでの経済運営策の中心にあるのは、いわゆる「ゼロ金利政策」で諸企業の業容拡大や新規部門への進出を支援し、それを基盤にできる限り大幅賃上げを促して、国内総生産の約6割を占める個人消費の増加に役立たせ、経済全体の活性化に連動させることにより、租税収入増と財政再建にも寄与させる“経済活動の好循環”を実現するのが目標になっている。かつ、超低金利は追加発行する国債の利子負担の軽減にも直結する。

 だが、経済諸指標を直視すれば容易に理解できるように、これまでのところ成果らしい成果は上がっていない。のみならず副作用にも看過できかねるものがある。

 例えば、日銀券発行の裏付けというべき日銀の資産内容が、いわゆる赤字国債に偏り過ぎているきらいを否めない。一国の中央銀行として望ましい状況ではあり得ない。次に企業活動。需要増や新規需要開拓の確かな見通しがなければ企業活動は慎重になるのが一般であろう。従って、政府が期待する大幅賃上げにも、容易には応じにくい。超低金利政策で企業活動の活性化を期待しても、海外に低賃金の労働が豊富にあることも、国境を超えて多角展開する業種・業態の諸企業からすれば、国内での大幅賃上げ要請には応じにくい要因の一つであろう。その半面、超低金利政策は、通常ならあるべき預金者の利子収入の大幅減に直結し、この面からは、主として低所得層の消費に対してマイナス要因になる。富裕層のそれを含めての利子収入減は、平常時の預金利率が年2ないし3%と想定した場合(決して高率ではあるまい)に比べると、恐らく年間数十兆円規模の預金利子収入減(預金者全体)を強制していることになろう。これも個人消費の活性化に対してマイナス要因になっていると言えるだろう。

 人口減と人口構成の悪化が国民経済に及ぼすマイナス効果に関しては、すでに繰り返し述べたから、ここでは省く。厄介な問題は海外にもある。転じて海外要因にも目を向けよう。

 改めて念を押すまでもなかろうが、国際社会は、戦争と平和、協力・協調と非協力・自国の国益優先主義、経済先進国とそれを追う新興各国との時には摩擦をも交えた支援と支援の受け入れなど、国家間相互の駆け引きを繰り返している。いわゆる国家エゴが前面に出たり後景に退いたりの繰り返しである。露骨な国家エゴイズムに基づく主張や場合によっては軍事力発動も多分に生じ得る。昨今は先の大戦による悲惨さの実感がいわばやや後景に退いているきらいなしとしない。それだけに、物的資源海外依存度の極めて高い経済大国日本の経済外交の先行きは見通しが容易でなく、楽観を許さない。

 経済の国際協調にヒビ割れが生じると時には困難(日本だけに限らないが)な局面に陥ることは、昭和40年代後半期のOPEC(サウジアラビアを盟主とする石油輸出国機構)による対外石油輸出制限政策が引き起こした輸入国側のショックを振り返るがいい。ひとり日本に限らず原油の多くを輸入に依存している経済主要国の動揺は大きく、英国では経済活動の停滞を意味するスタグネーションと諸物価高騰を意味するインフレとの合成語「スタグフレーション」という新語が生まれたほどのショックを受けた。もとより日本経済も混迷に陥ることを免れなかった。原油の輸入が大幅減となれば日本企業の生産活動は大打撃を受け、先の大戦から戦後期にかけて経験した激しい「物不足」と「諸物価高騰」は必至として、生活必需品の買いあさりが一気に広がった。

 無論、生産・販売側の多くはいわゆる「売り惜しみ」「物隠し」に動く事例が多く、「どこどこで食用油を売る」とか「しょうゆを買える」とか聞けば、われ先にと買い手が店先に列を成すこともあった。有力なエコノミストが「経済ゼロ成長時代の到来」と叫んだ。某全国紙が「うまく入手したトイレ用紙」を山と積んだ写真を紙面に掲載して危機感をあおる事例もあった。

 数カ月後に騒ぎは収まったものの、結果として諸物価は一斉に大幅高、これに対応して賃金水準も一気に上がった。打撃を受けたのは、日本だけだはない。しかし、経済運営・経済の着実な成長確保に不可欠な重要物資を輸入に頼る日本の弱点をいわばさらけ出したことに、疑問はない。もっとも、近年は米国の新たな石油資源発見もあり、オイル・ショック再現の心配は、とりあえずあるまい。

 代わって心配なのが、アフリカからの西欧各国への大量難民流入と中東情勢の不安定。流入受け入れ各国は困惑の色濃く、他方シリアは事実上の内戦状態にあり先行き見通し難。加えて結束を固めたかに見えた欧州連合(EU)にも足並みの乱れがちらつく。

 そこへもってきて米国の政権交代。対外政治・経済がどう展開するか見通し難である。

 日本経済の今後にとって外的条件も当面良いとは言えない。見通しも明るいとは判断できない。

(おぜき・みちのぶ)