困難な日本経済運営の現況
内外の環境条件は最悪
人口減阻止と弱者救済策を
日本経済の動きが冴(さ)えない。部門別には若干の変動があるものの、全体としては弱含みの横ばいの状態の域を出ない。かつ、それがすでに長期に及んでおり、加えて、その状況から早急に脱出して国民の多数が景況の立ち直りに手応えを実感できるようになる見込みは差し当たり全くない―そう判断せざるを得ない。それが現況であろう。
景況が冴えないことの主たる原因ないし背景は、何よりも、日本経済を取り巻く内外環境条件が良くないこと、これをおいて他にあり得ない。
まず海外。衆目に明らかな通り、社会を不安にさせる事件が多発しており、中東を中心とした新しいタイプの動乱が、各国の経済運営に少なからず“影”を落としている。アフリカから欧州主要国への大量の難民流入に伴う経済負担の増加や混乱も軽視できない。それとは別に、中国経済の活力低下と輸入力の鈍化も大きい。その質はともかく、中国経済の規模は米国に次いで巨大だから、輸入力の鈍化が国際経済社会にとって厄介な弱材料にならざるを得ないし、もとより日本もその圏外に立つことはできない。
視点を国内に移す。国内要因としては、本欄ですでに述べたことの繰り返しになって恐縮ながら、総人口の減少傾向と人口構成の“ひずみ”が、重い“弱材料”になっている現況を直視せざるを得ない。総人口の減少は、他の諸要因が同じと前提すれば、国内総生産(GDP)の約6割を占める個人消費に対してマイナス要因になる。換言すれば、経済成長を阻む重大な弱材料である。それに加えて人口構成も望ましい状態には程遠い。次代を担うべき幼年層や青少年層の人口が、これも減少傾向のまま推移しているのがそれで、総人口の減少基調と同じく経済成長にとって重大なマイナス要因である。
しかも、総人口の減少傾向も人口構成の是正も、短期間に解決することは不可能でしかない。関連して、海外からの訪日客が多いことは、日本の経済にとって好材料に違いないと一応は言えよう。が、これも、日本人の海外旅行客の増勢と相殺関係になる。経済成長への寄与に多くを望むのは無理だろう。
日本の経済史あるいは金融史に特記されるであろう日銀の超々低金利政策は、富裕層は別として中堅以下の所得層の利子収入を奪ってこれも個人消費には軽視できぬほど大きなマイナス要因にならざるを得ないし、すでにそうなり始めている。その大きさを算定することは容易ではないが、控えめに見積もっても、例えば預金利子率が年2%程度と仮定した場合に比べるなら、個人消費を減退させる額は、年間で数兆円程度にはとどまるまい。もとより、この面では個人消費の抑圧要因すなわち国内景況に対するマイナスになることを軽視できかねる。
併せて指摘すると、日銀の資産内容は悪化の一途をたどっているというべきだろう。先の大戦中は、軍の指示に従って「臨時軍事費」の名の下に“天井知らず”とさえいうべき巨額の日銀券を軍に提供し、終戦後の爆発的な大インフレへの重大要因になった経緯がある。これについては、日銀調査局の主(ぬし)といわれたエコノミスト吉野俊彦(故人=日銀理事)の述懐がある。現行法が日銀による国債の直接引き受けを禁止しているのは、それなりの苦い経験による。
無論、日本経済の現況で「インフレ不安」など口にすれば、それこそ物笑いを免れないし、少なくも形の上では、日銀による国債の直接引き受けはない。だが、市中金融機関を経由しているとはいうものの日銀による大量の国債買い入れが日銀自身の資産内容を偏った状態にしていることは疑いない。加えて、国の総需要の半ば以上を占める個人消費にはマイナスに働く。海外経済の先行き見通し難とそれが重なって多数の諸企業は積極的な業容拡大にはそれこそすこぶる付きの慎重な態度に傾いている。それが近況ではないか。
無論、政府も日本経済の活性化を目指してそれなりの政策努力を続けている。一億総活躍社会の実現をスローガンに掲げて。が、具体的なその内容は―となると、日本経済再活性化への決め手になるようなものは見当たらない。これは、政府が無策無能だということでなく、日本経済それ自体にとって“内外環境条件があまりにも厳しい”ためとみるべきだろう。
そうであるだけに、現状での政府の重要政策は、①人口減を食い止めつつ人口構成の是正に力を入れる②GDPの伸張がほぼストップしている実情の中で経済的弱者つまり低所得層の増加を食い止め、逆に減少に力点を置く―この辺に政策の力点を置くべきではないか。
付け加える。条件を緩和して移民の受け入れを増やす―のも、抽象的には有力な対策だろう。が、いわば“劇薬”に近かろう。
(おぜき・みちのぶ)