世界から置き去り日本漁業
制度変えず補助金頼み
改革実績上げるノルウェー
日本の漁業は経済協力開発機構(OECD)諸国のうちでも最も凋落が著しい。天然魚類を漁獲する漁業が自国の排他的経済水域(EEZ)内での減少が著しい。ピークには1985年の1130万トンの漁業生産が、現在(2014年)ではわずか374万トンで、そのうち沿岸漁業は1977年の210万トンから2014年の59万トン(孵化放流で増えたオホーツク海・知床半島の北海道サケとホタテを除く)と壊滅的に減少した。すなわち、北海道太平洋と日本海から九州と沖縄にかけて魚は28%、すなわち約4分の1に減少した。水産都市、隠岐の島や佐渡でも地魚は出ず、ノルウェーのサバ、養殖サケやカナダ産のアカウオの寿司や魚料理が出されるというありさまだ。
昭和44年に発売された森進一の「港町ブルース」に出る「函館、気仙沼、三崎、焼津、枕崎」の水産都市も大きく衰退し、人口減少も著しく、地方再生とは名ばかりで、地方には政府は補助金配りと市役所など行政機関への事務支援しか手を打っていない。高齢化した漁業者も自分の代さえよければと諦め切っている。若者は将来性がない漁業は見切り、諦め、都会や近郊で他の職につき、残った者は会合でも物も言わない。
世界では1970年代には養殖業の生産は皆無に近かったが、2014年では7380万トンと天然漁獲の9340万トンに迫る勢いだ。養殖業でもピーク(1980年代)から30%以上40万トンも減少しているのは日本だけだ。中国、インドや東南アジア諸国と中南米では急速に伸びている。中国は現在5700万トンで日本の57倍である。驚異的だ。
これらの原因は大きく三つある。第1に漁業法制度が現代に全くついていけず江戸時代の末期の歴史を引きずっている。当時の漁業者同士の定めた、古い漁業のルールに拘束され、科学的なデータに基づく、資源の管理を行っていない。この制度を水産行政官も政治家も漁業者も変えようとしない。長年馴染(なじ)んだ方法が楽であるからだ。養殖は、特定区画漁業権という特権が「養殖できる者」を漁協の組合員に限定し、一般企業やイノベーション力のある人たちを排除している。海という公共財の私物化である。
第2に補助金である。終戦直後から、漁業者の団体である全国漁業協同組合連合会は補助金の確保を主要な仕事にした。戦後、漁業債権を政府に放棄させたことがその始まりで、関税貿易一般協定・多角的貿易交渉(GATT・ウルグアイ・ラウンド)や環太平洋連携協定(TPP)の貿易に関する国際交渉が妥結されれば、それを口実にして政府も政治家も補助金の獲得を仕事とし、提供し、制度の改正を一切しない。
第3に役人と政治家の不勉強と怠慢である。制度改革が利益を生み出すことを理解しない。外国から学ばない。だから現状をそのままにし、安直に補助金に頼る。その結果漁業は衰退して、誰もやらない産業に近づいた。戦後70年間そのように行政と政治は動いてきた。プレーヤーを入れ替えない限りこれからもそうだろう。
4年ぶりで6月下旬にアイルランドとノルウェーを訪問した。
科学的根拠に基づき総漁獲量を設定し、これまでの漁業者の取り放題の因習に逆らい、個別の漁業者に総漁獲量を割り当てた譲渡可能個別割当(ITQ)制度が定着して、大型漁船経営はその安定性が増し、小型漁船も一時は反対していたが、現在は沿岸域の小型漁船を組合員とする小型漁船協会はITQを歓迎している。アイスランド本島南部に位置するウェストマン諸島のウェストマン・シーフード(VSV)社は、漁業者の投資の集約を果たし個人から株式会社にし、さらに外部から経営陣を招致して、経営の安定を達成した。今後は、労働力の削減と、マーケットへの安定供給とマネジメントの高度化を目指し投資と高学歴の人材の確保へ、経営方針を変更した。総漁獲可能量(TAC)制度とITQ制度で資源と個人漁獲量が安定したからである。
1990年から投入実施された個別漁船漁獲割当制度(IVQ)が成果を上げた。ノルウェー政府は、今後20年間安定する制度設計をめざして改革を検討中だ。12月に結論を出す。漁業資源も石油と同様にノルウェー居住者の共有資源であり、隣国アイスランドが既に資源利用税を導入したことから同国でも資源利用税の導入と、小規模漁業の漁獲枠の売買の自由を検討している。
また、養殖業の海洋環境へ及ぼす影響が大きいことから、海ジラミの感染の予防とイスケープメント(生け簀(す)からのサケの逃避)の防御の対策が天然サケと生態系の保護と調和を目指している。
このように両国は、投資を漁船と陸上加工場の近代化、高性能化と販売戦略の多様化の方向に向けている。これも資源が安定して将来の漁獲の安定性が明確に見通しがつくようになったためである。養殖業も経営と環境調和の概念が強化される。このように制度を将来を見据えて、改善・改革をする姿勢が両国の政府と漁業界に見ることができる。我が国は両国から大きく水をあけられた。差を埋めようがない。
(こまつ・まさゆき)