日本経済内外環境の不透明

尾関 通允経済ジャーナリスト 尾関 通允

世界に警戒要因が山積

対応策の貧困さも不安材料

 日本経済を取り巻く内外環境条件が決してよくないことは、否応なしに景況不振に直結せざるを得ない。先行きもすこぶる付きの不透明性を色濃く帯びている。

 その実態は経済諸指標を一覧すれば、だれの目にも明らかであろう。広告費を除いて、生産・出荷・在庫・在庫率ほか、いずれも低調、日銀はついに一部マイナス金利導入に至っている。所得格差・消費能力格差・企業の活躍格差も、同様だろう。外的条件がよくないことが響いたせいもあってだろう。アベノミクスの成果も見えてこない。

 今年1月4日大発会の日経平均株価は大幅反落して1万8450円98銭に、2月12日には1万4952円61銭まで落ち込んだ。東京株式市場がときに大幅変動を繰り返し、ひところに比べて激安というべき低水準に落ち込んでいるのも、主たる要因は環境条件がよくないのに加え、経済の先行きが見通しにくいという以上に対応策の貧困など不安材料が少なくないからに違いない。内外経済の展開がどうなるのか予測は至難、結果として東京株式は米国NY株式にほぼ追随する域を出ぬ形になっている。

 海外経済の先行き予測を困難にしている要因の一つは、石油価格がどう動くかであろう。NY原油先物相場での原油価格は2008年の米国発金融危機勃発以前や、5年前の11年から14年には高騰して100㌦を超すこともあったが、今年に入り一時は20㌦台にまで急落している。

 これには、米国でシェールオイル掘削による新しい油田の大量発見と大量輸出の実現などが響いている。石油や石油製品は現代社会に不可欠で、とりわけ日本のような自給率ほとんどゼロの国にとっては、すこぶる付きの好材料のはずである。

 現実に、昭和40年代後半から50年代前半にかけ、OPEC(サウジアラビアを中心とした「石油輸出国機構」)が打ち出した対外輸出の値上げと石油量の減少の影響をもろに受けて、日本は日用消費財の生産減・供給減・売り惜しみ・買い溜め・買いあさりなど、歴史に残るほどの混乱に陥った苦い経験がある。それだけに、石油の安値は日本にとって原則的に悪くはないはずだろう。

 ところが、現況は、供給価格・輸入価格が不安定、かつ、石油輸出国側はそれにつれて必要物品の輸入力低下を招くことになる。単に石油の対外価格は安ければいいというものでもない。さらに、米国で急増した新興石油採掘業者の倒産が少なくないとの情報もある。

 米国に次いで世界第2の経済大国にのし上がった中国の経済活動に一種の疲労現象が定着しているというべきことも、日本を含む国際経済社会にとって看過できない弱材料である。経済規模が大きいだけに、世界経済にとって厄介な弱材料になっている。中国からの訪日客による“爆買い”などは、中国の輸入総額に比べればほんのわずか、輸入額減少全体からすれば「九牛の一毛」にすぎない。

 シリアの内戦を含む中東の混迷と混迷から生じた難民の大量発生、それに民族の風俗や信仰の違いからくる抗争をも加わっての不安定――これも、国際経済社会全体にとって極めて厄介な弱材料の一つに違いない。各地で過激派組織「イスラム国」をはじめとしたテロ組織の攻撃もあり、シリアやアフガニスタンからを主とした難民は最近時点で6000万人を超え、うち海外への難民は2000万人、西欧各国は負担の重さに苦しみ受け入れ制限に動いている、と聞く。

 日本にとってだけではないが、新興経済各国の相次ぐ台頭は、日本のような資源貧弱で新興諸国に比べれば賃金水準の高い国にとって重大な事態ではないか。家電業界の名門「シャープ」の台湾企業「鴻海」への“身売り”話は「そんなこともあるのか」などと軽々に受け取るべきではあるまい。いってみれば、これは後発の各国経済の中に、かつての戦後期日本のように経済先進国に「追いつけ」「追い越せ」とする努力が実を結ぶ――そういう具体例が現れ始めたことの証明ではないか。

 発展途上国は、それぞれの人口に応じて大なり小なりの潜在需要を持つ。日本をも含む経済先進国は、それぞれの内需の伸びが鈍くなっているきらい(高度技術部門はもとより圏外だが)がある。そのため、新興各国に資本と技術を持ち込んで国内市場の伸びの鈍化を埋め合わせしようと海外に活動領域を広げようとするし、実際にそうしてきた。ところが、それがいわゆるブーメラン効果を生じている。シャープの鴻海への“身売り”は、その具体例ではないか。この見方が外れているとすれば、かえって幸いである。

 そんな状況下にあるだけに、経済運営面での国際協力は一段と重要性を帯びている。1929年秋のNY株暴落は、有力国それぞれの経済勢力圏“囲い込み”争いを誘発し、かえって歴史に残る世界恐慌への引き金になり、さらに世界大戦(第2次)への伏線にもなった。その愚を繰り返さぬための各国の協力協調が不可欠なのは、自明であろう。

(おぜき・みちのぶ)