アベノミクスの成果未だし
市場縮小する人口減少
賃上げ伸びず弱含む展開か
分かり切ったことだが、人も生き物なのだから、必要最低限以上の飲食物や日常生活に是非とも欲しい家庭用道具類を欠かすことはできない。その飲食物などの購入に課税するのは、かつての人頭税に似て、本質的に悪税に属する。低所得層に対してはそれなりの生活支援をしている点、悪税の本質を相応に緩和する配慮をしているとはいえ、富裕層や高額所得層(最近は一流のスポーツ選手やタレントなどにも多くなっている)と年収250万円そこそこしかない低所得層とでは、税負担のもたらす圧迫感が、まるきり違うはずである。
その観点からすれば、政府が平成29年4月からの消費税率10%の適用範囲を絞ったことは、それなりに評価していいだろう。ただし、税率10%への引き上げが、日本経済全体にどう影響するだろうかは、それとは別問題で、日本経済の運営の基本にかかわる内外の環境条件が着実によくなっている場合(その可能性は頭から否定できないが確実性は低い)は別として、仮に近況のまま推移するものと想定すれば、国民経済全体の運営が苦しさを増す恐れは決して軽視できまい。
日本経済の近況を直視しよう。景況は全体としてほぼ足踏み状態、賃金も政府が期待したほどには伸びず、鉱工業生産指数も月により多少の変動はあるものの基調的には勢いを欠く。鉱工業生産指数も鉱工業の出荷指数も前年同月比では弱含みの気配をみせている。消費者物価指数も、やや弱含み気味で推移している。これらの指数の動きからすれば、日本経済復調の兆しはまだしかと感じ取れるには至っていないし、したがって、「アベノミクス」と首相が声高に唱えた国民経済再活性化策も、成果を挙げるには至っていないと言わざるを得ない。
いわゆるアベノミクスでは、日銀と連携しつつ「ゼロ金利」状態を推進継続して企業の借入金利子負担を軽くするとともに円安を誘導して輸出産業の輸出伸長を促し、これらを通じて多数企業の収益の増加を促進するとともに企業が従業員に支払う賃金を増やして個人消費増に向けさせることで、日本経済全体の好循環を実現させよう、とするものだった。
ところが、想定外の誤算があった。有力企業の賃上げが政府の期待ほどには全体として進まず、したがってまた、個人消費も政府の想定ほどには増えず、2人以上の世帯の消費支出は前年同月比でむしろ弱含みになっていることである。
日本経済社会は国際社会と離れては存続できるはずがない。その国際社会は多事多端を極めている。輸出入依存度の高い諸企業はもとより、内需中心型の諸企業も含めて、自己防衛に動かざるを得ない。加えて、国民総数のうちのかなり多くが「飽食の時代」を迎えており、「いかに美味か」「いかに健康に役立つか」などをめぐって売り込み競争が激しい。日本の国が人口減少段階に入り込んだことは、顧客の奪い合いを一段と厳しくする。
そこでは、生産・販売コストの上昇防止など、むしろ引き下げの要請が半ば自動的に作用する。賃下げは企業としての面目もあり従業員の勤労意欲にもマイナスに響くから例外はあるものの問題外だが、異業種からの参入をも含めて競争が厳しい昨今、いかに首相を先頭に政府側から強い要請があろうと、大幅賃上げ(消費税増税のマイナス作用を相殺するに足る以上の)など、できようはずはなかろう。
関連して、不本意ながら、当時(賃上げ呼びかけの際)某有力閣僚が「企業はこれ以上に内部留保を増やしてどうするつもりだ」という趣旨の強い発言をしたことを、批判しておかなければならない。およそ企業経営の望ましい在り方を二の次にしているからである。
社内留保が手厚い企業ほど、対外信用度は高く、株主の信頼度も厚く、したがって株式市場での価格形成にも有利に働き、事業拡大に必要な場合には金融機関からの借り入れ増や増資新株の発行にも会社にとってすべて益するところが大きい。欲しい人材の確保にも企業にとって好都合である。「これ以上、内部留保を増やして…」の発言の「賃金引き上げ幅を大きくして景気上昇にもっと役立たせるよう配慮すべきだ」との思いは分かるが、それにしても、この発言は雑にすぎよう。
しかも、海外情勢は混迷の色濃く複雑怪奇で、各国の経済運営にとっての懸念要因・不安材料が山積している。日本が人口減少時代に入り、高齢者層が経済運営上の負担になりつつあることも、紛れもなく弱材料だと言わざるを得ない。多数企業に自己防衛本能が強く働くのは必然の成り行きではないか。
結論に移る。国内には人口減と高齢化の弱材料、海外情勢も複雑怪奇で全く不透明、明るい見通しは現時点では立たないというべきだろう。当面の日本経済は、弱含み横ばい状態が続くものとみる。
話は別。例の東芝問題。公認会計士による監査がここでは全く機能していなかったことの責任をも厳しく追及すべきだと強調する。
(おぜき・みちのぶ)






