日本を見出す外国人観光客

NPO法人修学院院長・アジア太平洋交流学会会長 久保田 信之

久保田 信之生活文化に驚きや関心

観光事業支える日常の努力

 政府は、アベノミクス「第3の矢」である「富の拡大」「経済成長」の大きな目玉に「観光産業」の発展を置いている。そして、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催前までに訪日客数2000万人を達成しようという目標を設定したのだ。これを受けて、東京をはじめ多くの自治体では、「観光産業振興政策」の立案と実施に大きなエネルギーを注ぎ始めたという。

 このところ、確かに訪日外国人観光客の数は、うなぎのぼりに増加している。政府観光局の統計によると、2015年2月は昨年2月に比べて58%増の139万人が来日し、月間で過去最高だったという。また別の調査によると、そうした外国人観光客が「日本に何を求めてきたのか」というと、断トツが「日本食を食べる」とか「日本酒・地酒を味わってみたい」といった「食生活」だそうで、第2位の「ショッピングを楽しみたい」を大きく引き離しているし、第3位は「自然、景勝の地観光」、「東京その他の繁華街の街歩き」なのだそうだ。

 外国人が、日本の景色やショッピングばかりでなく、いわゆる「衣食住」すべての生活文化に興味をもって来日してくれている現状を、われわれは深く認識する必要があると言いたい。

 ところが、従来の日本文化の紹介は、「家元制」の中で守られ洗練された日本の伝統文化、すなわち、茶道、華道など『道』がつくほど精神性を伴った抽象度が高いものに決め付けてきた。また、専門家や家元に配慮してきた旧文部省は、優れた日本の伝統文化の伝達こそが任務であると決め込んできた。かつての教育方法は、師範学校教育を頂点に道を究めた師(師範)が未だ知られざる未熟な者に、順序良く正しい立派な文化遺産を教え授ける「教授中心主義」であった。

 しかし、今や価値感は多様になり、情報は容易に入手されるし、テレビやIT(先端技術)の時代になったというのに、主としてNHKの第2チャンネルが担ってきた「伝統文化に関する教養番組」は、あいかわらず、「高く洗練された、正しい立派な本当の文化を教え授ける働き」として捉え続けてきた。それゆえ、率直に言ってNHK第2の「教育番組」は「面白くない」「堅苦しい」印象は否めなかった。

 ところが、最近のテレビ番組の中に、「外国人から見た日本の再発見」をねらった番組が多くなったことにお気づきであろうか。NHKの衛星放送「COOL JAPAN」という番組は、毎回、10人近くの若い外国人を登場させている。彼らの目に映った、自国とは違う、自国にはない、日本の生活文化に接して得た驚きや新鮮さを自由に語ってもらい、「いかしてる」「クールだ!」と、評価する過程を明らかにして「日本文化の特殊性と価値」を視聴者に認識させる番組なのだ。

 NHK衛星放送だからかもしれないが、従来の“NHKらしい”教え授けや、まことしやかに解説をして聞かせるものではないのだ。伝統的な日本の「師範学校教育」ではなく、みずみずしい実体験を出発点において、反芻(はんすう)しあいながら、「日本の特殊性」を、体験者の心に「忘れ得ない感激」を刻み込む、「本来の教育番組」だ、と私は評価したい。

 この他、テレビ東京の「Youは何しに日本へ」や「たけしの日本のミカタ!」、さらにはテレビ朝日の「世界が驚いたニッポン!」、BS朝日の「にほん風景物語」など、最近は、外国人が日本の生活文化に驚きの目、尊敬の目をもって接している事実を放送する番組が増えている。

 われわれの調査でも、「日本の技術の高さに驚いた」とか「日本でまずい料理に当たったことが無い」「日本の街は清潔で安心だ」「日本の人々の振る舞いは美しい」、さらには「日本人の宗教観は理想だ」と、日本人の質の高い生活文化を認めている。

 外国人観光客が、高い旅費と貴重な時間をかけてまで、わざわざ来日してくれるのは、自分たちの国で得られない価値を日本に見出し、それを高く評価してくれたからに他ならない。しかし、観光業者が売り物だと思っている「四季折々の美しい景色や温泉や料理」が最大の価値だと思っていてはならないと言いたい。さらにまた、『道』にまで洗練された日本文化、伝統にあこがれて日本に来てくれる、というのも一面的で正しくない。

 そうした「美しい物、美味しい物」さらには「高尚な文化」を背後から支えてきた日本人の心、精神文化にこそ、驚嘆し尊敬する根源があるのだ。「整理整頓されている街なみ」「相手の気持ちを大事にする心の優しさ」など日常生活で彼らが気付く日本の魅力は、いずれも、われわれの先輩たち一人ひとりがその生活の中で実践し、築き上げてきた文化なのだ。

 日本の価値高き伝統文化は、博物館に飾ってあるような死んだものではない。観光地を潤すだけの特殊な商品でもない。むしろ、われわれ一人ひとりの生活の中に生きている「私の価値」なのだ。身近な生活を愛し尊重して継承することこそ観光事業をささえる原動力だ、と言いたい。

(くぼた・のぶゆき)