進む中国の空母部隊建設
元統幕議長・杉山 蕃
国産1番艦近く部隊配属
強襲揚陸艦建造にも資源投入
6月上旬、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が福岡で実施される中、空母「遼寧」が宮古水道を抜け太平洋へ進出、他方、米第7艦隊と海自「いずも」は、日米共同訓練を南シナ海で実施するという対極的行動が報ぜられた。双方十全の計画準備が必要な活動であり、政治日程を意識しながらの行動と承知するが、我が国近海も騒々しくなったと痛感する。今回は「遼寧」の行動に関連し、中国空母部隊建設のその後の状況を紹介したい。
原子力いつ採用か注目
まず中国空母の建造であるが、遼寧に関しては、試験艦として種々のテスト、実用体験を繰り返しており、太平洋進出は3回目、前回から1年2カ月ぶりの行動である。駆逐艦、高速支援艦等合計6隻の艦隊構成であるが、おそらくは複数の潜水艦と合流し、活動していると推測される。今後も遼寧は外洋運用、ネットワーク戦に備えた試験、運用基盤の醸成に使われていくものと思われる。
国産1番艦(001あるいは山東)は、遼寧と同型で、スキージャンプ台方式の中型空母(6万㌧級)で、3年半前に公表され、現在艤装作業中、近々部隊配属が行われるものと見込まれている。種々の映像が公開されているが、カタパルトを持たず、搭載戦闘機も従来のJ15と見られ、厳しい運用制限を余儀なくされるようである。
注目の国産2番艦は江南造船所で4年前から建造が始まっており、カタパルトを有する平坦甲板、8万㌧級の大型空母である。カタパルトは、蒸気式あるいは電磁式のいずれか不明であるが、技術輸入元のロシア製ガスタービンの能力から、連続発艦運用には制限が有るものと推察されている。
3・4番艦については各種の情報が錯綜(さくそう)しており、定かではない。さらに、中国造船技術の進歩から、大型艦は分割建造方式を採っているため、衛星画像等による早期情報入手は困難で、分割製造した各部位が結合され始めると、短期間に完成する状況にある。特に各国が注目しているのは原子力推進を何時から採り入れるかという点であるのは当然である。
さらに注目すべきは、強襲揚陸艦の建造である。本欄で紹介した強襲揚陸艦への評価の高まりを受けて、中国海軍も2年前から4万㌧級の新型艦(075型、米ワスプ型に匹敵)の建造を上海造船所で開始している。いわゆる「軽空母運用」分野への資源投入が行われていることを十分承知する必要がある。これらの結果、中国海軍は2030年には、空母4、潜水艦99、駆逐艦等102、ミサイル艇111、揚陸艦73など、合計415隻の大規模海軍となり、隻数で米国を凌駕(りょうが)すると米誌(ナショナル・インタレスト)は伝えている。
各国の対応であるが、米国は第7艦隊の空母を2隻とし、前方展開を強化することを検討中といわれ、インド海軍は、インド洋への進出に対処するため、現在2隻の空母体制を、3隻体制とすることを公表している。台湾は、対艦ミサイル「雄風」の射程延伸、発数強化、潜水艦増強により周辺での活動を制約する方向である。ベトナムは、潜水艦増強と、カムラン湾の諸外国への解放による間接的効果を求める等それぞれの対策を取り始めている。
警戒監視網の充実重要
我が国は、ヘリ搭載護衛艦(DDH)を改装し艦載戦闘機(F35B)を運用する構想、ステルス戦闘機の増強、地対艦ミサイルの射程延伸、通常型潜水艦の増強等の事業が計画されているが、海上航空力の在り方等、長期的観点から真面目な検討が行われようとする段階で、活発な議論・検討が必要である。昨年末の防衛計画大綱、中期業務計画で、喫緊の課題として、対弾道ミサイル対処、宇宙、サイバーといった諸点がクローズアップされたところであるが、引き続き次なる懸案、対中国海上航空力対処に叡智(えいち)を傾ける時期が来ていることを痛感する。
特に宇宙・空中・地上・水中の各分野での警戒監視網の見直し・充実は、何にも増して重要な課題であろう。中国の軍拡路線は、一党独裁の特異な政治体制を維持するため、人民の士気を高揚・結束させる格好の手段でもあり、長期的に継続されるであろうことを覚悟していく必要がある。
(すぎやま・しげる)






