韓国を卑下、北朝鮮は尊重 文政権に教科書記述歪曲疑惑

「積弊教育」清算の一環か

 韓国で小学校6年生が授業で使う今年3月発行の社会科教科書の記述をめぐり韓国を卑下しながら北朝鮮を尊重したり、反保守・反日の感情を植え付ける内容に密かに変更されていたことが発覚し問題になっている。背景には国内保守派が支持する歴史教育を「積弊教育」として清算するため、強引に左派史観に基づく記述に歪曲させようとした文在寅政権の思惑があるとの見方が広がっている。
(ソウル・上田勇実)

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韓国教育省発行の小学校6年生社会科教科書を紹介しながら記述歪曲疑惑を報じる韓国のテレビ(キャプチャー画面)

 「1948年12月、国際連合は大韓民国政府を朝鮮半島唯一の合法政府として承認した」

 これは小6社会科教科書にこれまで掲載されていた韓国の国際社会における地位承認に関する重要な記述だ。当時、合法政府の地位をめぐり北朝鮮と対立していた韓国にとってこの事実が持つ意味は極めて大きい。

 ところが今年度1学期用の教科書からこの記述がすっぽり抜け落ちたという。教科書は同年8月の韓国建国についてこれまで「大韓民国樹立」と記されていたものを「大韓民国政府樹立」とあえて国家から政府に格下げする一方、逆に同年9月の北朝鮮建国は「北朝鮮政権樹立」から「朝鮮民主主義人民共和国が樹立」に表現を格上げした。まるで国連承認を否定し、合法政府は自分たちの方だったと主張する北朝鮮の考えを反映させるかのようだ。

 さらに核・ミサイル開発などで韓国をはじめ周辺国の脅威となってきたことを念頭に盛り込まれた「北朝鮮は依然として朝鮮半島の平和と安保を脅かしている」という記述も削除された。昨年から南北融和ムードが高潮したことを受け、北朝鮮を刺激しないという“配慮”がにじんでいる。

 教科書には反保守・反日的な認識を児童に植え付けるための内容も見られる。1960年に発生した軍事政権に反対する民衆デモ(4・19革命)を題材にした詩を引用しているが、そこには次のような下りが出てくる。

 「バン、バン、バン、バンと銃声が聞こえてきます/朝空と夕焼けを/お兄さんとお姉さんたちは血で染めました」

 これを読む児童たちは軍事政権への反感を抱くようになり、デモの1年後にクーデターで大統領に就任した朴正煕氏の娘で文政権が「積弊」と批判してきた朴槿恵前大統領に対する反感にもつながっていく可能性がある。

 19世紀末、日本統治期で起きた大規模な農民内乱「甲午農民戦争(東学党の乱)」に関しては当時の決起文の一部文言をカッコにし、児童たちにカッコ内を「日本」と書かせる授業を想定したものまである。

 記述歪曲は213カ所に及び、現在、この教科書を使用している小学校は全国で6000校以上、計43万人の児童が影響を受けているという。

 記述歪曲は昨年、全く変更を知らされていなかったとする教科書執筆者の暴露が発端となり、違法な記述変更があったのではないかという疑惑に発展した。野党の告発を受けて捜査していた検察はこのほど教育省の担当課長ら官僚2人と出版社関係者1人の計3人を職権乱用や私文書偽造などの容疑で在宅起訴し、捜査を打ち切った。

 しかし、「課長クラスの役人が上層部(文政権)から何の“お墨付き”もなく単独犯行に及んだとは信じ難い」(大手紙朝鮮日報)ため、最大野党・自由韓国党など保守陣営は青瓦台(大統領府)の介入を疑っている。同党議員や保守系弁護士団体などは先週、同教科書の使用差し止めを求める仮処分を憲法裁判所に申し立てるなど徹底抗戦の構えだ。

 文政権は疑惑が浮上して以来、知らぬ存ぜぬを貫いている。兪銀恵教育相は国会で「前政権(朴槿恵政権)が国定教科書を編纂するため便法を講じたのと今回の問題は全く異なる」と主張し、左傾化教科書の是正に取り組んだ朴前政権を批判した。

 韓国では政権交代のたびに社会科(歴史)教科書の記述をめぐり左右両派が激しく対立する「教科書戦争」が繰り広げられてきたが、そのたびに教育行政の役人や現場の教師と児童が振り回されている。