米中国交「40周年」中国の本音
平成国際大学教授 浅野 和生
台湾統合に武力行使も
米国はアジアの安定を保証
40年前の1月1日、米中の国交が正常化された。これに伴い、その1月1日にアメリカと台湾は断交となった。しかしそのアメリカは、国内法で「台湾関係法」を制定して、台湾の存続を保証し、アメリカにいる台湾の人々の法的権利を保護することにした。「台湾関係法」にカーター大統領が署名したのは同年4月7日、しかし条文の規定により1月1日に遡(さかのぼ)って効力が発生することになった。
つまり1月1日は、「台湾関係法」発効40周年でもある。
しかし中国は、この日を別の形で祝してみせた。すなわち、中国は「台湾同胞に告げる書」公表から40周年を記念して1月2日に祝賀式典を開催、習近平(国家主席)が記念演説を行った。
ところで、「台湾同胞に告げる書」は、1978年12月26日の全国人民代表大会常務委員会で決定されたものだ。その要点は五つである。第1に「一つの中国の立場を堅持」「台湾独立に反対」、第2に「統一においては台湾の現状を考慮する」「台湾の人々の意見を尊重して、実情に合う政策を採用する」、第3に「台湾の統一には、台湾人民の希望となる方針を提出する」、第4に「金門島に対する砲撃を停止する」、中台間で「軍事的対決状態を終結させる話し合いを行う」、第5に「台湾海峡両岸の郵便、往来」「親族や友人の訪問」「観光による相互訪問」の実現と「貿易、経済交流の促進」―以上である。これが「台湾を祖国回帰させ、祖国の平和統一を実現する大方針」として発表された。
その内容は、アメリカとの国交正常化を切望した中国が、アメリカの要望に合わせたものである。ところで、中国に対するアメリカの基本的立場は、72年2月の「上海コミュニケ」に示されている。つまり「台湾海峡両岸の全ての中国人が、中国は一つであり、台湾は中国の一部であると主張していると認識している」「中国人自らによる台湾問題の平和的解決に関心を有している」、その展望の下に、台湾に置かれていたアメリカの軍隊と軍事施設を撤退ないし撤去する、というものである。79年1月1日の国交正常化の際の共同声明でも「上海コミュニケ」の原則が確認された。
注目すべきは第4項目である。中国は58年8月23日から、アモイの目と鼻の先にある台湾領の金門島に、最初の2時間だけで4万発という凄(すさ)まじい砲撃を行ったことがある。しかし米第7艦隊が出動、台湾周辺に7隻の空母が展開されると中国は砲撃を停止した。ところが、同年10月28日以後、中国は「隔日攻撃」として、毎週月・水・金曜日に金門島に向けて砲撃を行うようになった。「隔日攻撃」はそれ以来21年間続けられたが、「台湾同胞に告げる書」は、これを「停止」すると表明したのである。
40年前の「台湾同胞に告げる書」は、上海コミュニケの原則を上書きするものだが、今回の記念演説は、さらにそれを上書きするものだった。
習近平は、1月2日の演説で、40年前の方針を繰り返すとともに、祖国統一の最善の方法は「一国二制度」であると強調した。しかし、これは既に香港で実施している方式であり、中国中央政府の意のままに扱われ、民主と人権が圧迫される香港の実情を熟知している台湾の人々が、「一国二制度」を喜ぶはずがない。
また、台湾はすっかり民主化が定着したから、共産党独裁の中国と急いで統一したいと願う人は3・1%、「どちらかといえば統一を望む」と合わせて16%にすぎない(國立政治大学選挙研究センターの昨年12月の世論調査)から、第2、第3項目の「台湾の人々の現状に沿った統一方法」や、「台湾の人々の希望になる」ことはあり得ない。
ところで本年10月1日は、中華人民共和国の建国70年である。そこに思いをいたせば、1月2日に習近平が「台湾同胞に告げる書40周年記念式典演説」を行ったことの意味が理解できるだろう。つまり習近平は、自らの手で「祖国統一」の悲願を達成するために、建国70年の今年こそ、台湾統一へ向けて一歩前進を遂げたいに違いない。
一方、米中国交正常化のもう一方の当事者であるアメリカは、これとは別の形で米中国交正常化40周年を祝した。昨年12月31日、トランプ(大統領)がアジア再保証促進法(Asia Reassurance Initiative Act=ARIA)に署名して、同法を成立させたのである。
同法は、「アメリカ第一主義」を掲げるトランプでも、アメリカがアジアの平和と繁栄に責任を持ち続けることを法制化したものだ。同法は「台湾関係法」の誠実な執行を大統領に迫るとともに、昨年成立した「台湾旅行法」の積極的な適用、つまり米台双方の政府高官の相互訪問の促進を求めている。つまり、習近平が、台湾の統一実現を断言し、「武力行使を放棄しない」と宣言したかの演説の2日前に、アメリカは、「そうは問屋が卸さない」と先回りしたのであった。
ちなみに、ARIAにおいて、アメリカがアジアの平和のために最も重視しているパートナーは日本であり、その基礎は日米安保条約だと言及されている。
(敬称略)
(あさの・かずお)